<944>「僅かな匂いは、例えばただの白昼夢」

 鳥はどこへふる。

 あなたは緑色になって訊ねた。

 小さく渦のなかに、濁って鳴るもの、かねてより掬うひと。

 水面は恥じらい。あなたの頬が映る。

 あなたは掬う、静かに染み、軽々と放たれていった。

 ひとはいつか、はばたきの予感のなかに眠っていた。

 徐々に湧く、またサッ・・・と払う、音(おと)はついに掴めないところへ・・・、乱れた足並み。

 余計に呼吸をし、ひとりで照れている。

 およそ知らないものの眼に、ひとり、輪(ワ)として映ること。

 胴間声のすぐそば、音(おと)、音(おと)を跨いでゆきさる・・・、ひとの指が透明にたわむれる。

 僅かな匂いは、たとえばただの飛翔。たとえばただの白昼夢。

 けはいのそばを離れ、ひとりで踊る、ふたりは踊る。

 ものが、ほんの一瞬、揃ってこちらを眺めている。

 おぼえずしれずわたしは軽さだった。ただ壊れてしまうという表現の、ある意味ではあたらない・・・。

 ふざけた雲と時を同じくし、飛び交う子、飛び交う子ら、のゥ朝・・・。

 ふるとふる、接近としゃがみ込み、触れたと過ぎた、またはたらくは、晴れる。そこは水、そこはかとない水、そこはかつてない水・・・。

 ためらいのときのハ、音(おと)がわたしの頭をさっと掠む。