2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧

<373>「このもとに触れ続けて」

表情は変わらない。だが違うものであるためにその変化は必要がなく、全く知らない場所を用意されてなんだかなあと進んでいくと、見たことのある景色に戻ってきた安堵もない。 安心の基礎になるものは・・・。そんなものは何もなくて、ぐるっとひと巡りしてい…

<372>「問う朝、明確な朝」

遠慮しがちに歩く道は、別段険しい訳でもなければ、優しい訳でもない。目を伏せるだけよく道の先まで見えるというものだ。誰かが問う、彼らと問う。突然お前は笑い出す。具体的に回復が図られて、大袈裟に調子が良くなれば、なあんだと思ったのだ。 ひょんな…

<371>「私は停止します」

ある範囲内まで接近すれば、その人は必ず止まってしまうのだから、周りの人間は、その人が何もしない人なのだと考えた。また、そう考えるのが普通だったし、非協力的だと軽く不満を覚える人も少なくなかった。 何故止まってしまうのかが分からないので、他者…

<370>「内証を掃く」

一度見た景色の、大袈裟な他人でしかない。通り過ぎた窓たちの、不機嫌な掃除夫でしかない。ひどく霞んだ風景を、丁寧に払いのけることを拒絶し、強かに座り込むひとりの警戒者でしかない。 見られた経験は、風の中を移ろい、次第々々に疲れていく。内証の通…

<369>「ユ」

コトコトコトコト、大層な局面までやたらに誘われていくのが愉快でないと言いたい? あそこもここも同じ部屋で、安心だけが違って映るのが滑稽だが、大丈夫だ、問題が一様になくなっていくのが見えるから。前に立つものは影となり、またそうした反応を強いる…

<368>「集合の時節」

徒に、名前であるはずの時節。細かい動きに、囚われていたはずの過去。集合は、いつも駆け足だ。気持ちはまだない。だいいち遅れているはずの場所で、帰ると言っても良かったのだ。僕が関係でなくなるとして解散してしまえば、中心の定まらない不安を、誰彼…

<367>「微笑みはどこまでも遠い」

眠りから醒めていくなか、遥かな昔がかすかに残った。それは、優しさ以外の何ものでもない。生まれ出る秘密を知っていたのだ。だが、もう一度知ることだって出来た。微笑みは遠い、どこまでも遠い。映された表情を、確かに見留めて、懲りない感触の私になる…

<366>「撹拌される朝」

まあ寛いでいっておくれ、君の席はそこにはないのだよ。ちょうど計算した分だけの後じさり、ちょうど食べた分だけの皮肉な感想。連絡係は未だに居場所を探している。大それた経験を漏らしていくよ、どうも通り抜けていないと思うのさ。それで、少し散歩をし…

<365>「ひとつの夜が警戒であるために」

ひとつの夜が警戒であるために、夢をよく飲み込んでいる。パチパチと、弾けて見えるものたちと、昨日の私、巻き取られ、もやのかかった溜め息。 こぼしているのか捨てるのか、いずれにしろ、君のような不安感が、破れた景色ときっかけとを掴んだ。滑らかであ…

<364>「ひとつのものの層と色」

この人が伝えたいことはひとつだ。それはしかし、ひとつの言葉にはならない。ひとつのことを伝えるのにどれくらいの言葉が必要になるのか。一方で、ひとつのことを分かりかける、ということがある。ひとつのことを分かるのだから、0か1しかないのだろうと…

<363>「生きているのだろう?」

何もないところに意味を見る、目的を見出す、その見方、見出し方みたいなものには興味がなく、当然、何もないところに何かの意味を見出すこと自体にも興味はなく、何故、何もないところに何かを見出さないではいられないのか、というところに非常な関心があ…

<362>「繰り返されるプレゼント」

僕が土台となって、曇天よりもの景色を見せよう。ここにあるものは全部が渋滞だ。押し合いへし合いしながら、優しく根本を生み出して、決して帰ることのない日々を僕に計算させるのさ。眺めるので、それで足りなければ適当に二、三の歩みを。もう少しのステ…

<361>「蒸発する眠り」

興奮と共にある、それは興奮と共にある景色としてもう一押しの参加を促すと、ぐつぐつ温かい。妄想を許す曲線がときどきで色を変え、肉を変え、眠気がすいすい蒸発していくのを感じる。見ていたね、見ていたいね。景色として当たり前になると、もうそこには…

<360>「空気と色との関係」

薄暗い景色が徐々に暖かさを持つ、その空気が私と関係になるのだ。かえってそのままどんどんと流してしまったことがよく記憶に残り、細かさは細かさとして気紛れにここへ現れるし、現れたらいい。何が嫌なのか。私が溶け出していくというイメージでは何かが…

<359>「単純な時間」

本当にやりたいことならば、必ずやっているはずだなどと、あまり簡単に思ってはいけませんよ。ええ、やはり、我慢しているはずです。誰に頼まれた訳でもありませんが、もう少し我慢している方がいいのかしら。どうだろう。 本当にやりたいことが為されないと…

<358>「眠りと小便」

振り返らなければならないことは何か。点検しなければならないことは? こうした余裕のあるということが、最後であるという事実と上手く一致しない。ああ、全てのものは流れて行ったのだったが、頭の中でひとつひとつを取り戻すまでもなく、大量に引き戻され…

<357>「最後の夜」

最後の夜だ。決定的に何かが足りていないのだが、それが何かは分からない。具体的に数え立ててみれば、その作業にいつまでもかかってしまうような気がするし、それならもう、足りていないという考え自体が間違いだろうというようにも思えてくる。ともかくも…

<356>「この熱からばらばらにひらいて」

何よりもまず、熱に浮かされているのかもしれない。動くのが億劫なので、同じことが何度も何度も頭の中で繰り返され、静かな音になり、終点を見失ってだんだんに身体が温かくなると、不可思議な眠りと時を同じくするのだ。どうせいつわりの温かさだ。しかし…

<355>「関心と無関心のバランス」

関心と無関心を同じ位置に(高さに)据えたいのだ。良い方と悪い方という捉え方でなく、関心と無関心が同じくらいあることによってその場が安定するというような。絶対に皆が関心を持つべきだと信じられている問題においてさえ、本当に皆が皆関心を持ち出す…

<354>「持続」

どうにもならないぞ、というとき、 「どうしたらいいですか?」 と、そのどうにもならなさを他人に預けて何とかしてもらおうとするのは良し悪しだ。そうすることによってものが開けていくこともあるから一概に悪いとは言えないのだが、自分の判断や決定の領…

<353>「雪崩」

これだけ魔性であるからといって、何か支障がありますか。一度きり駈けたらいいでしょう。よく燃えているものと聞きますが、私もそう思います。全身溶け出して、そこまで染み入ってしまったとして、何か批難されなければならない理由がありますか。永遠を丁…

<352>「苦味がする日」

ちぎれていくものを、ひとつひとつ掬う私は、苦みでなくて何なのでしょう。振り返ると、目の回ることばかりで、むろん振り返らせるものがあったのには違いないのです。記憶というものが頼りなく、また正確で、もう片方に立った人が誰か過去の人であるという…

<351>「死んで準備する」

死んでいたと思いましたが、良かったですねえ。はい、生きていたと言いましょうか、生き返ったと言いましょうか、どうなんでしょうか。いやあ、大変嬉しいですよ、あなたはてっきり死んだとばかり思っていました。えっへへ、まあ・・・。しかし、死んだと見…

<350>「家で見る」

絵は家で見た方がいい。そんなに何枚も何枚も置いておく訳にはいかないだろうが、どうしても見ていたいものは、たとえ本物でなくてもコピーでも何でもいいから家に置いておいて、そこで見た方がいいと思う。 そんなことを何故考えるのかといえば、美術館や、…

<349>「起きたな、散らばる」

器を器として成り立たしめるものは、調子の良し悪しを確かめる素振りもなく、すっと侵入してきたかと思うと、たちまちにもうひとりを存在させてしまった。調子を無視するのは形なのか、内容なのか。ともかくも、雄弁な語りが腹部を渦巻き、挑発的に駆け巡る…

<348>「何追うでもなく」

旦那は幻影を追っているのだと、あまりにも安易に言われた。言われすぎた。しかし悔しくて、むなしかった、悔しさを捨て切れずにいたのは確かにせよ、幻をいつまでもいつまでも狂ったように追っているのではなかったと私は思う。その道行き、届かないものを…

<347>「街灯のなかの陽」

どこまでも沈んでいく声。頼りなさを駈けていく。鈍重な眺めよ、寂しい通りにひたひたと何もない。預かっておいた快哉は、使う場所を持たされたように笑って、なんとなくそこに立っている。眠られぬ気持ちをただひたすらに慰める。暴動の日常性、しびれさせ…

<346>「枝分かれ」

分かれてゆく。一体の中心となったらここはどこなんだ? 考えたこともない者どもの尋常な視線を受けて緩やかに方向が変わっていく。それが先だ。俺をここから追いかけているのは誰だ。分裂の空中、優しげな笑みを差し、翻りつつ昇っていく。ぶざまにあちらと…

<345>「人と法則」

そこにシステムを見ることが出来るだけであって、システムそのものがそこに存在している訳ではない。それをごっちゃにして、システム通りに動かないのはおかしい、その通りに動くよう努力しなければならないという話になると、何かおかしくなっていく。どう…

<344>「贈与と交換」

「これは贈与ですよ」 というのは建前で、実際は交換であり、もらった瞬間からもう、何かを返さなきゃいけないと考えなければならなくて、また仮に返さないでいると、贈与をしたはずの相手は、 「何も返ってこない!」 「あの人はこういうとき何も返さない人…