2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

<800>「記憶のなかの右腕」

ふらり・・・と、それは私から出る音に違いはないが、まろび出たその穴に尋常ならざるひつコさでかじりついていた。が、見えた。私は右腕を見た。 私は記憶のなかで右腕を見た もいで、もいで、もいで、それから、嗅覚に出会うまで、疾走する犬と(イヤ、あ…

<799>「陸は余韻だ」

ひょっとすると、これは、捨てられた意識で、私を置き去りにしながら、一言、二言喋る。涙が流れる。一緒になって道は避けている。 例えば、クマなら、鮭の腹に喰らわりついて、石の上へ鮮紅の粒をぶち撒ける。涙が流れる。私が生まれ変わっても川の水をすす…

<798>「結わいた声のおそろしさ」

あなたの慎重な手 あなたの慎重な手は、土をカく。 あなたただこぼしてください・・・。 勢いと、ただで割れる 割れるしか能のない・・・。 恥ずかしい裸体は海辺に上がる。 恥ずかしい裸体は海に打ちつけられている。 声が出ない 言葉は声を裏切る ああ怖い…

<797>「バスの中の固形」

口を乗せて、角で待っていた。バスは指を混ぜて膨らんでいった。ある人が声に出す。 「じゅんばん」 「じゅんばん」 乗客は溜め息を漏らす。もちろん、ふたりは続いていた。歪んでいたんで、あたしはそこを抜けるんです。通るんですよ。どうやらあの様子では…

<796>「落下、火」

やがて、行為は転落する。 窓を開け、ただ呆然と眺めていた。欠片を集めた中心に落ち、たちまち燃え出す。煙は避け難い名前を見せてユルユルと、あ、こちらまで上がってくる。顔を不安定な温かさで撫ぜるとき、既にその名は消えていた。かすかな悲鳴が残った…

<795>「低音の溝に鳴る」

空気が文字の上を滑る。私はここに一生の染みを見留めた。困惑が、一秒前の目になる。穴のアくほど欲望を、そのまま見つめる。とサラサラ流れ、ひたすら回る執念になる。執念は動く私を見ていた。 同じ位置にいさせる 言葉は発したそばから同じ位置を指さす …

<794>「座る」

よこに居る。いつもの言葉がある。導線は君を捉える。不思議な匂いだ。私は逃げ出したくなった。チカチカしていた。諦めたら感慨がなだれ込んできた。通してくれ、通してくれ。声には力がこもる。コケる。逃げる。また明日になる。私は人のいない場所に座っ…

<793>「種の間の夢」

時間は確かに、腹の中で今も乾いていて、相当にしぶとく忘れている。 私はリズムをやめよう。私は飛び散る。私の後ろに急旋回する音が貼りつく。 楽しみは全て空腹へ譲る。空腹はリズムである。空腹はふざけている。食物の匂いで楽しみを忘れる。 激しさはな…

<792>「タンジェント」

タンジェントはささやいた タンジェントは静かな鐘の音を聞いた・・・ タンジェント、私はあなたを踊ったのだ ざわめきがここまで届いている タンジェントには記憶がない タンジェントのことが私にはよく分かる タンジェント、綺麗さを失ってはならない タン…

<791>「手を湿りへ招ぶ」

あれほどの声、声にまろんでゆく。背を見せ、お互いにのち、酔いが語る。ヨイドレ、おそらくふたつ。対象にひどく吸いついていて、唇。 こんだしょうたいした こんだ、あたしが招んだ 手前に光る。分からずやのずっと、記憶にかじり、つきつつ、不機嫌なズレ…

<790>「好悪の芽」

何でこんなことを書きだすのかと言えば、あなたの一番遠くの遠く、その好きの、得意の芽を見つけて掴んでおくことが大事だという話を素直に聞いたからで、素直に聞いたのは随分前で、その時に思い出し済みなのだけれども、今、その時分の辺りのことをくっき…

<789>「あなたの言うことには名前がない」

順番が逆だ。あちらこちらで物事が上手く転がっていって、それは私に、真っすぐ進んでゆく言葉が見えないからだ。上手く摑めないからだ。 混乱に乗じて踊ってくれよ 上手く踊れればいい。考えることもバラバラでいい。引っかかりをいちいち置いておくよ。絡…

<788>「空き缶のなかで増殖する、私の楽しさ」

かけがえのない別れが私に何事かの言葉を残していく。 良かったね また帰ろう あるいはそこで埋もれていく。誰に対してもよみがえる。 あざやかさ 集まれた 昔、一すみの心でインチキだと考えていた、今も同じ気持ちで、ただ、私は、ひとりでインチキを太く…

<787>「言葉の先から」

言葉の先の先の方から、私がただれてくる。名付けようのないものがただれ出てくる。単独者を追っている。ひとりの形を確かめるのに、いくらか時間を稼いだ。厳しい視界のなかへ、意図した私と意図しない言葉を置いてみる。 そこらじゅうが愉快だ 小さな一言…

<786>「不在のあとを」

あくびをする。誰かがいない。空気を分ける。ここはここで、不在のあとを楽しんだ。 けいきが落ちる。けいきを拾う。わざと塗りたくる。ここはここで、不在のあとを楽しんだ。 指でしめす。方向は踊る。風が水気を求めて近づいてくる、と、ふれる。ふれて落…

<785>「あたしこれをさげて」

もっと軽く、驚くように軽く、伸びてみたら良いんじゃないの、と、身体と言えばそんなものかもしらない。 あたしはぶら下げている。もっとも、そんなものは、誰しも同じだ。ぶら下げていないもののことについちゃ何とでも言えるから、 「それはそうにしても…

<784>「隠れた考えの熱」

道をしっかりと確かめろ、と言う。どこを渡ってきたのかは分からない、自分はそうだ、と言っている。俺はどこを歩いているのか、と考えてみるのは問題なく、もし仮にそれが分かってしまったら・・・。いや、分かってしまってもあたしの癖は変わらないのだろ…

<783>「君は回転だけに集中できる」

新しい街を指差す。あくがれが地面から漏れ出す。お望みであれば、穴という穴から、汚れから何から、こぼし続けよう。さいわい、私には上から下までの水があった。備え付けられた大がかりなテレビから、引き裂けた歌声が流れて聴衆はセンボーと苛立ちを演技…

<782>「悲しくないときだけ泣くことが出来た」

充分に細くしておく。誰も閉じていない。目が合う気がするのでない。そこに間違いはないのだ。充分に細くしておかなければ良かった、と、後悔もせずに一応考えてみる。 「君は満開のまま回転しているのか?」 いや、いつも、激しい運動は一番下に隠されてい…

<781>「隆起よ、こんにちは」

話した分と、沈黙していた分、それぞれが同じように、身体のなかで感慨を作っている。数え切れない向きとともに黙り、生暖かい空洞のなかで言葉は色々の回転を持つ。あいにくひとつの入口しか持たず、殺到しても誰もそれを文字だと捉えないこともしばしば。 …

<780>「ためらいは何を耐える」

怒りのあらわれがある。それが適当な誰かでも、私でも、ひどく困るものだな、と。なんせ、渡ってゆくことに理由がない。 橋をこちらへ渡ってきた人が、ニヤニヤ笑いを私に向ける。私もニヤニヤ笑いを返す。やめどきを見失うなどする。そばで、ひとりの男が、…

<779>「所作は汚れをかきまわす」

汚してはならぬ場所に囲まれて、わたしは、記憶を使って息をする。喉にただ、頑固さと、走り回った映像がうつり、それを、幾度となく通している。 影には影の、例えば、問い、があった。あきらかにしてしまえば終わりも何もなくなるのではないかと。まして、…

<778>「えぐれる」

えぐれを読め。えぐれを意識せよ。えぐれを意識すると、ただめくれていく一枚々々の私のことを思える。嬉しい匂い。過去にここまで見えてしまったことがあるのだろうか。無の構えでどこまでも吸い上げていこうとする響きを感ずる。お互いの腹の中より大きな…

<777>「二人に増えたい」

ああ、そうだろ。当たり前だろ。一致していないんだ。誰だよバラバラに喋るんだろ。 夜、よぎってはならぬものとともに、極めて自然に言葉を転がす。ところがその、柔らかい顔のなかには、未知の、それ自体爆発しか期していない、混乱した匂いがあった。ひと…

<776>「意識の帰り道」

ここからまた、申し出は申し出で小さくなる。顔を覗かす。故と言われているが、どうだ。どうにでもならざるを得ない。特別な物事のようで後は綺麗だ。割れていく。どうであれ割れてゆく。苦しげで、物音と。 さがるばかりのなか、思い出したところで拾う。俺…

<775>「1ミリの濡れ」

もう一枚内側で、空気に触れていると思えた。独自の香り。収まるところへ、上手く収まっていないという考え、むしろよく動く。唇にやぼったく淀みが、挟まって押したり引いたり、あまり力も入っていないようで、どこへでもパアーッとひらけていかないか、な…

<774>「渦を残して」

広場の隅の隅のなんでもないところへ小さな渦を残してきた。一言一言を置いていく様は誰が見ても可愛かった。一心に巡ることで始まりと終わりを分からなくする。誰かの番などここでは考えられなかった。 そこでいいのと訊かれる前も、後も、残された場所から…

<773>「根が伸びる」

あなたの言っていることが分かれば分かるほど、隠すものが増えてゆく。これは無用か、あれも無用だ。むろん、考えているほどのことはない。別れながらもまたひとつところに留まる。何かに対して急いでいる。 ここに長い時間倒れている。土に埋もれている。あ…

<772>「交潤点」

ただ、余計な事を言って、笑ってそのまま流してしまう、それを時間としてひとつくれと思った。頭では幾回も興奮している。そうして割り込んで、普通の道筋に侵入して、 ううん、なんでもない と、ただ一言笑うだけの時間をここで拡げてくれろよ、と順番に呟…

<771>「透明の裏」

あ、あ、そうして、そばへあたれ。言葉へ、やがて、開き直った目に、剥き出したらそばへ寄る。ただの今、たった今、透明の裏側へひっくり返った。何かに、かけて、溜め息を放つのではなかったし、遠くにかかっても、間で私に何が分かる訳でもない。 そら挑め…