2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧

<38>「遅れるということ」

(この場面ではこういうコメント、あの場面ではああいうコメント、と、型が自ずから出来上がってしまい、流暢に話せはするが、それは頭を経過していないものなので、そういうものを見ているのもしんどいし、やるのもしんどい) そういったことを、声に出さず…

<37>「アトハアトハ」

跡がついた、ここにもあすこにも。大きな口を開いて待っている。べしゃりと吸いついた。舌先が、ゆるやかにしびれる。舐めたそばから、跡は大きく拡がっていく、ぐわあさっぐわあさっ。熱を持った壁は、呻くようにして体をくの字に曲げ、大きな口を丸呑みに…

<36>「動的な一日」

全部が動きであるということが、どうして否定されなければならないのだろう。刹那的であるとか、無意味に傾くとかが、どうも悪いもの、情のないものとして見られていることに違和感を覚える。常のものと何ら変わるところのないように見えたものが、瞬く間に…

<35>「冷たい空気の中の眠り」

こういうところに居てはならない。それは明らかだった。だが、それを説明する術がないし、理屈もない。いつまでもいつまでも眠る必要を感じていた。全く嬉しさを伴わない疲れ。ここで日常を送り、すっかり慣れてしまっている存在というものを、まるで想像す…

<34>「相談という言葉」

おい、何笑ってんだよ、ええ? おかしい? 何だよ、俺が相談していることの何が可笑しいんだ? 俺が相談していること自体は別におかしくない? 何だ、じゃあ相談の内容が可笑しいっていうのか? そうじゃない? 相談がおかしい? そのものが? 相談という概…

<33>「他人の道具の異質さ」

他人の自転車に跨ったときほど、強く他者の異質性というものを感じる瞬間は無い。サドルの位置も適当で、漕ぎ出すのに苦労するという訳でもないのに、細部のひとつひとつが、いちいちしっくりこない。やんわりと拒絶されているような気分だ。道具というもの…

<32>「同じ国語の通訳者」

駆使している言語が同じであっても、翻訳、通訳が必要になることがある。言語以前の言語(それは感覚といっても良いが)は、人それぞれ違った形を示しており、全員が全員、他の人とは違う自分だけの言語を持っているとも言える。 そこへきて、国語などという…

<31>「よくまあいろんなことを憶えているものだ」

ここから泣き出したり、笑ったり、怒ったり、嫌そうな顔にでも移ってくれれば、私にだって態度の取りようがある。だが、どの表情とも取れる、またどの表情とも取れない、全ての表情の中間、いや、表情の途中のような顔をしているので、ぐーっと近寄ってみた…

<30>「分解される花」

とぷん・・・ボコボコボコ・・・。口を開いちゃいけない。腹、腹、腹。何も知られていない。しかし、探してはいる。俺にはこんなによく分かるのだが、口を開けられないので仕方ない。どうして呼ぶのだろう。いや、呼んでもらった方が良いのかもしれない。け…

<29>「奥へ」

散らしている、紛らしている。本当は、本当って何だろう。いや、とにかく、自由で、宙ぶらりんで、遊びで・・・。そういう事実(この際、事実といっても良いだろう)にしか関心がないんだ。けれど、そのことばかりを言っていたんじゃ迷惑するだろうと思うか…

<28>「全てがコントであれば」

興味を失した瞬間の表情に敏感すぎるので、長く喋っていることが出来ない(もしくは、喋ったとしても始終おちゃらけてしまう)。それで気づいたのだが、どうやら、他人が興味を失っていようがいなかろうが、構わずに喋り続けることの出来る人の方が多いよう…

<27>「語りと沈黙が同じになるところ」

説明がないということを説明する。何かを語ることそれ自体が説明であるとすれば、説明というのは無いんだということを延々と説明し続けるよりほかに道はない。自然と口数は多くなる。鳴り続けている音は騒音であることをやめるだろう(程度にもよるが)。そ…

<26>「説明、説明」

とは言えね、俺も説明に慣れ過ぎたよ。初めこそ、俺が欲した訳じゃなかったのかもしれないけどさ、こういうのが必要なんですよ、身につけましょうってんで、言われるままにボリボリ食っていたらさ、もう説明の方から食われるようにまでなっちまったよ、ええ…

<25>「ここに何が起きた」

よく見えるところに飾っているのだが、はて飾っているだけなのか、ちゃんと見ているのか、どうも自身が無くなってきた。色が安定しないので、だんだんにしんどくなってくる。説明がない、解釈が排されているというのはどういうことだろうか。いや、そのまま…

<24>「渇いている場所を信ずる」

遅刻しそうになって、などなら経験したこともあるが、人生において、つまりどう生きていくか云々であまり焦ったことがない。というより、あんまり鈍くて焦る能力がないだけかもしれないが。こういうときの焦りはおそらく、 「何かの為に」 という思いから来…

<23>「オレンジ色をした夢」

毒々しいオレンジ色が、通路を真っすぐに浸している。色を失った乗客は、左右に分けられ、丁寧に収納されているようだ。振動で全体の印象がぼやけている。うめくような、静かな寝息・・・。 私は、眠っている、眠ってそのまま家に留まっている様子を想像した…

<22>「物語の不可能」

さて、材料は揃った。もう充分に揃ったが、これからも次々に追加されていくことだろう。これだけ揃えば、いかようにも組み合わせて、どんな物語をも作ることが可能になる・・・はずだった。しかし、実際は逆だ。豊富になればなるだけ明らかになるのは、物語…

<21>「ある態度」

耐えられない? そう、耐えられないという確信があり、日々それが強まっていっているような感覚がある。そんなことがあっていいのか、と思うのは、幸せを目標とするのが当たり前、いや、当たり前ということがわざわざ言われないほどに暗黙の前提となっている…

<20>「場所の粘り気」

お前がそうやって簡単に退ける、いや、退けたつもりでいられるのは、偏に肉体の良好さに拠るのではないか。そのどうしようもない基盤がポロポロと崩れて行き出したとき、お前は同じように希望を必要としないでいられるか、不幸にもたれかからずにいられるか。…

<19>「剥がれているもののこと」

人間全体の一部としてだとか、一体感が大事だとか、使命が何たらとか、どうしてあんなに賢い人たちから、そんな言葉が出てくるのだろう。そういうことを言わないと、どうなるか分かっているんだろうなと、他人に脅されてでもいるんじゃないかと考えて初めて…

<18>「悩みと嘆き」

あんた、俺が悩むと思うかい? 悩まないんじゃなかったの、そうなんだよ、俺には悩みがない。対処出来るものなら対処すればいいし、対処出来ないものなら、ひとり嘆いていればいいからね、そうだね、でも、悩みがないと思っているだけなのかもしれないよ、そ…

<17>「どんな変化も」

新鮮な驚きを保っていたい、なんて言うだろう? まあ、別に願いとしては悪くないけどね、私はもう驚かないよ。今まであまりに大きく驚きすぎてきたと言った方がいいかもしれない(しかし不思議だね。驚かずに過ぎてきたことも、振り返ってみると驚かずにはい…

<16>「遊びと宙ぶらり」

子どもが、遊戯であるという確信、いや、確信という程にも分離していないものを、何らの強制も受けずに生涯持ち続けたら(あり得ない仮定ではあるが)、宙ぶらりんであるということに愕然として慄えることもないのであろうか(遊ぶ存在であるということ即ち…

<15>「集まり、バラける」

長生きしようという大合唱にも共感できないが、さっさと死んでしまおうという話にも上手く折り合えはしない。納得のいかなさ、そういうものが生へと結びついている。それは、怒っている訳じゃない。ただただ納得できないのだ。何だこれは。治す、ということ…

<14>「合奏の可能性」

痒い。手前勝手な調和のことを考え、それが少しずつ、あるいは大胆にズレていくのを目撃し、たまらず痒くなる。しかし、勝手なひとりよがりの考えだから、他人には伝えない。他人もその調和を目指した方が快適だろうにな、と思うことはいくらも、いくらでも…

<13>「涙と傲慢」

彼は泣いていた。あまりにも不遜であるということが、話を聞く前からよく分かっていたからだった。話の終わりにはもう泣き止みかけていた。泣いていることで彼の不遜さが弱まったようにも見えず、絵に劣らずの苛立たしさを湛えたままだったが、ともかくも彼…

<12>「不遜な人間」

間違いない、終わった、危機だ。どんと胸を押されて後ろに投げ出され、スローモーションのように漂い、数多の事物が前へ前へどんどんと流れ去っていくような心持ち。しかし、どこに追い込まれたと言うのか? 危機はどこにある? 終わったように感じている中…

<11>「笑い、笑い」

ヘラヘラする以外に、態度がないと思っていたのだった。恫喝者に対峙しているうち、次第に自身も恫喝者となっていくことは防ぎ難い。だから、そうならないようにヘラヘラしているよりほかないと思っていたのだった。 死者を尊重しようという姿勢が、おかしい…

<10>「宙ぶらりんであって」

こんなに忙しいんだ、という話に付き合うことのしんどさとは何かを考えていた。それは、繋がり、必要さ加減をアピールすればするほど、人間の持つ寄る辺なさが際立ってしまうという悲劇を見なければならないしんどさだった。本当に必要で、宙ぶらりんではあ…

<9>「彼(9)」

絵を見ることが私の仕事だと言ったら、大抵の人間は納得しないだろう。見るだけで何の仕事になるものか、そんなもんで食っていける訳がないだろう。しかし、この仕事で食っていけるかどうかは関係なかった。稼ぎを他で持っているからといって、これが一番の…