<945>「ものはわたしを涙と混同する」

 まだあどけない身(ミ)、

 ひとの姿を縒り、ゆくあてはただ裂けている。

 歓声と歓声、して溜め息、ひとはまた拾い、

 高濃度のさけび声、

 高濃度のざわめき、

 幕間(まくま)に果てしなく、声の駆ける・・・、

 君はけむたがり、ただ足元を見る、歩(フ)、歩(フ)、なら、歩む、歩む。

 ひとの声の棲むなかを僅かにうつむきながら歩いてゆく、

 駆けてすぐにまどろみ、

 触れてすぐに溶け出す、

 音(おと)は正しい、あなたのいきどおりの、地面にただ伝わっていない、しかしあなたの踏み足は、感情線の枠外にあった、

 うつむきのしたにあなたがいること、

 うつむきのしたにあなたはいそうだ、

 ものがイソウガイの滂沱にさらされて、

 ものはわたしを涙と混同したそうだ、

 ひとの皮膚に意味が鳴り、わたくしも涙もどこか違うところへ、音(おと)もなくすべりさってゆく・・・、

 過去無量のなけなしのひと声、

 過去無量のなけなしの語らい、

 転がり出でて、見事に縒られた姿、それは誰の目にも眩しい。

 足早に閉じる扉、そこへ小さくしゃがみ込み、ひたすらに腕を振るう、