<370>「内証を掃く」

 一度見た景色の、大袈裟な他人でしかない。通り過ぎた窓たちの、不機嫌な掃除夫でしかない。ひどく霞んだ風景を、丁寧に払いのけることを拒絶し、強かに座り込むひとりの警戒者でしかない。

 見られた経験は、風の中を移ろい、次第々々に疲れていく。内証の通路を、出来るだけ遠くに運んでいくしかない毎日の繰り返し。戻らされるものと、戻らされないものの選別、険悪。残りの時間である場合がないなら、進行を速める手持ち無沙汰のものであるしかない。ない袖が揺れていて、日常の不気味さ、珍しさでしかない。