<357>「最後の夜」

 最後の夜だ。決定的に何かが足りていないのだが、それが何かは分からない。具体的に数え立ててみれば、その作業にいつまでもかかってしまうような気がするし、それならもう、足りていないという考え自体が間違いだろうというようにも思えてくる。ともかくも、最後の夜まで来たではないか。それは、必要なものはとりあえず必要なだけ揃っていたということではないか。そうでなければ最後にまでは辿り着かないのだから。しかし、辿り着かなかった人にとっては、そこが最後になるのではないか。いや、そこはやはり中途なのだろう。これが最後の夜だとするならばそこはやはり中途だ。誰がそのことを確かめる? 当人だろう。ただ、最後だと分かってしまったことは不思議だ。全部が尽きたということによってそれが分かった訳ではない。量の話ではなく、ここが最後の場面だというのが明らかに分かったのだ。多分、それは誰の身に訪れても明らかに分かる類のものであったろう。分かった瞬間から疑いなくそれはたった一夜になった。最後なんていうことが分からなければよかったのか。分かったところで、普通の、一日の終わりとしての夜と、何かが違ってきたのか。最後の夜? 拍子抜けだ。最後の夜なんか、遠慮がちに道を行く人に譲ってやればいい。最後の夜がほしいか、と訊くのか? しかしいったいいくらで・・・。