<364>「ひとつのものの層と色」

 この人が伝えたいことはひとつだ。それはしかし、ひとつの言葉にはならない。ひとつのことを伝えるのにどれくらいの言葉が必要になるのか。一方で、ひとつのことを分かりかける、ということがある。ひとつのことを分かるのだから、0か1しかないのだろうと思うのだが、どうもそうではない。だんだんに色が濃くなっていくような、ひとつのことに対してそういう分かり方をしていく。それだから、別々のことを知ろうとしてあっちにもこっちにも臨む訳ではない。ひとつのことが知りたいからあっちこっちへ動くのだ。

 しかし積み重なれば、濃くなりさえすれば、ひとつのことに近づけるという訳でもない。量は必要なのだが、それは素直な階段になっている訳ではない。全く偶然の、思いがけない一瞬が、ただもう、ふざけているとしか思われないデタラメの一瞬が、何かその、理解というものを手助けするようなところがあって、それで・・・。