<287>「点の上にいる」

 一体私には何の苦しみもないのではないか。そう思うことが頻繁にある。それは、過去の記憶の否定でもなければ、私より単純に苦しみの総量が多いように見える他人と較べてのことでもない。苦しみのなさという空の場所に、突然スポッと嵌まるような感覚だ。それは何か、嬉しいこと楽しいことがあったが故の状態なのではないか。そうではないのだ。むしろそれらは苦しさを多分に含む。楽しかったが為にその後の反動が大きいという話ではなく、もうその楽しさの中に苦悩が存分に含まれている。

 苦しくも何ともないと感じてしまっているのは錯覚なのだろうか。自分が自分で苦しくないと思っているのなら、それはそれで、その瞬間に間違いはないのだろう。しかし、このぼんやりとした状態は何なのだろう。苦しくもない地点で、ゆっくりと寛いでいるという感じでもないのだ。本当の場所かどうかが分からず、変な時間に放り込まれている感じがする、と言った方が正確かもしれない。