2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

<312>「付き合い方」

そのままに出合い、そのままを見、良きところで去る。そしてまた赴き・・・というように、人の作品などを経過出来ないのは弱さか、辛抱のなさか、迂闊なのか、それしか選択肢がなかったのか・・・。 「これは一体どういう意味だったのだろう? 何を伝えたか…

<311>「暴走通りの微笑み」

私が見たものはそんな通りではなかった。荒くなる息を潜め、いたずらに視線が薄枯れていく。昨日今日の夢、昨日今日の夜、昨日と今日の優しい影を確かめて、それは走った。否、走るまでもなかったのだが。 動揺するのは後でいい。もう一度見る景色は大分鈍い…

<310>「あたふたする機械」

理解を超えることに対してあたふたする機械、その正確な作動だけを期す。故障した場合、何も感じないのか、あるいは冷静な判断を持ち出すのか。やけに落ち着いている状態を眺めて、これは故障だと見極めることには大変な困難が伴う。また、正確に動いている…

<309>「不透明な暗い夜」

聞き慣れた歩道は既に褪せ、結び、不人気をいちどきに降って、暴走通りの対を成す。暗い夜よ、香り立つ、不透明な暗い夜よ。今は私も残されていない。やがて飽き、膨らんだいやらしさ、そっとしておいて、棒立ちの人間を素早く絡め取る。 遅さはつまり、内緒…

<308>「朝は軽い」

困惑した傘を提げ、内証の通路をゆく。外壁を激しく打つ音に紛れ、ひとときの焦りはこちらを覗く。どーん、どーん。ひたむきな鐘の音は、まだあまりにも明るく、こちらとしてはどうすることもない。試しに、叫び立てるのを遠慮してみた後で、これでもかと轟…

<307>「湿った踊り」

そんなことはもういい。きっと解けないだろうということを考えて回るのだ。それこそ、日の昇らない先から・・・。私が見たものはそれだけではないか、いや、どれだけのものが積み重ねられていようと、あるのはぼんやりとした全体なので、そのことに疲れてい…

<306>「二重に巻かれた溜め息」

念頭に置かれないものの在処。そうして平静、普段の到来が肘をつき、こぼしては渡り、こぼしては渡る。二重に巻かれた線を幾度となく訪ねては、関係不要の興奮があたたかな渦を成す。また後退、そして、また・・・。 よく見られたものとしての遠慮、あるいは…

<305>「痛さと退屈」

どこかしら痛いところがあるときは、退屈しないものだ(不快ではあるのだが)。痛いこと、その辛さばかりが気になって、他の何をするのも億劫になる、それは別に間違いではないし順序もおかしくないと思うのだが、そもそも気晴らしに何かをしなければならな…

<304>「鏡の前」

まともであると思われるために奮闘しているのか、まともでないと思われるために奮闘しているのか、おそらくそのどちらでもあるために、何が何だか分からなくなり、そこには、まともであろうとする異常さと、まともでなく見られようとする正常さとがあるとい…

<303>「あいだの時間に居て、」

中学の時だったか、授業の一環で、金閣寺修復プロジェクトのようなもののドキュメンタリー映像を観た。尤も、焼かれたものを全て一から建て直すときの映像ではなく、汚れてダメになってきた金箔などを剥がし、漆を塗り直した後で(確か漆だったと思う・・・…

<302>「古い夢を見よ」

大検討の古い夢を見よ。自分の見た夢の呈示という不可解さ。道順のないごわごわからあれよあれよと道が現れて、通過する。久しく夢を回復していなかった不安と破られた安堵で、しばしの休息を楽しむ職業人は、もう一度初めからやり直し、技術もリセットされ…

<301>「走る、すれる」

そう、警備を拒否してしまえばいいのだ。最初からそうしていれば良かったのに、と軽く浮かれて、入りたい放題出たい放題の群衆を眺める。尤も、核心に近づける訳ではなく、殺到する人たちは大喜びで外側をぐるぐると回るだけだったが(非常に速かった)。 走…

<300>「寝られる」

その人の前で何となく、いつも寝てしまったり、寝たいような気になるのは、安心しているからだったが、その人は、前にも他の人でこういうことがあった、というかよくあるのだと言って拗ねてしまう。端から退屈している可能性だけを考えているのだ。そうでは…

<299>「沈黙する行程」

訳の分からない坂を仰ぎ見て、どこまで行ったらいいものやら、散々な目に遭いながらも、何とでも上手く言えてしまう状況が容易に想像出来ると、そのことでまた疲れてしまう。上手く言って逃れるというのが仮に(仮にじゃなくてもいい)大事なことだとして、…

<298>「差」

紙一重であることを感じる度、やはり、うろたえる。うろたえることを強制されていると言ってもいいぐらいに、その態度は必然のものだ。どうして転落したものの側に立ったり、転落したものを批難する側に立てたりするだろうか。自分の足元も同じようであるこ…

<297>「平然と紙一重」

罠みたく拡がる場所を前にして、何をこの、と力まない人間は、存外にどこまで行っても平気な顔をしている。一度も平気でなかったから後になってまた恐怖に陥る、のではなく、どこへ行っても平気そうな顔をしていたことに気づいて後から怖くなるのである(あ…

<296>「懸隔」

現実で起こる痛さと(例えば歯の痛みとか)、内側の世界との奇妙な遠さというものを思わずにはいられない。それは遠くから届いた電話のようなもので、もちろんお互いに交流はあり何かが伝わり、影響も諸に受けるのだが、同じ場所ではない。近くですらないの…

<295>「けぶる午後に」

心象風景が穏やかな午後を襲い、変色する夢を頻りに追いやっているその影が、ひとつふたつと景色を見破る。泣き喚く者どもの夢を捕らえ、安直に結びつける額を叩いて、飛ぶ馬の境をひたすらに撫でた。ああ、暴走通りの気味悪さ、熱帯地方のどよめき。 ひっく…

<294>「第十木曜日」

検討に値しない出来事は第十木曜日に回そう。紙の余白が僅かに埋まったことを確認し、静かに閉じた。近づきようのないものが、少しずつ距離を詰めてきているのを感じる。あれは、確認というのはどうして繰り返せば繰り返すほど不安になるのだろう。こんなだ…

<293>「冷静な手のなかで」

あまりよく見ていないものから現れる冷静な手のようなもの。それがいつまでも鳴り続けて意識を濁らせながら回転していく。二度と通らないという約束を反故にして尚進む中で痕跡は慣れない左足で消されたのだった。否、私はそれを右足ですることを拒否したの…

<292>「理由のない困惑」

おそらく叫びもしなければ、救ってもらいたいとも思っていない。これは何だろう。最初から持っていないから、目的を失いようがないのだ。全体が目的を失った(ように見えた・・・というのも、最初からありはしないのだから)ことに気づいて慄いた時代とはズ…

<291>「朝がふたつ」

朝がふたつ。続く天気は晴れ、ややまどろみ。冷静な水しぶき、なべて夢に持ちこみ、夕日は停滞。 朝がふたつ。どうりで天気快晴。やや迷い、冷たい水しぶき、夕まぐれの倦怠、夢に持ち。 露骨に道を渡る男の肩を控えめに掴み、軽く引きずり回した後で、暗さ…

<290>「情報と歩くゆうべ」

表面的な変化に興味を見出せなくなる。すると、答えはどこかに退いた。道であることをやめ、空であることをやめ、そそくさと帰り、薄くなり、のっぺらぼうの地面をただひたすらに見せている。 くだらない絡まれ方に戸惑い、しかし上がるテンションはもうひと…

<289>「枠組みをふっと外れて」

このことから、どうせ死ぬんだから、まあまあ焦りなさんなという語りかけが、有効に響くこともあれば、そうもいかずに空しく響いてしまう訳も分かってくる。生きているのが嫌なだけなら、その通りどうせ来る寿命を待てばいいのだが、生に耐え切れなくなった…

<288>「死から逃れる」

寿命が尽きて死ぬのと、自ら死ぬこととの間には、何かその、過程の相違というだけでは片付けられない相違がある。木の枝で首を吊ろうとしていた人間、しかし木の枝が折れて下に落っこち、怪我はしたものの何とか一命を取り留めると、 「助かった」 と言った…

<287>「点の上にいる」

一体私には何の苦しみもないのではないか。そう思うことが頻繁にある。それは、過去の記憶の否定でもなければ、私より単純に苦しみの総量が多いように見える他人と較べてのことでもない。苦しみのなさという空の場所に、突然スポッと嵌まるような感覚だ。そ…

<286>「夢から剥がれて」

夢の光景があまりにもゴチャゴチャしていて、起きてすぐには気がつけないにしても、しばらく時間が経つと、起き抜けに夢の中のあんなことを本当のことだと思って、一瞬でも頭がそのまま動いていたという事実に、思わず笑みがこぼれる。そこには順序も辻褄も…

<285>「動力は」

何かに非常に勇気をもらう、そんなことは俺にはないのだよ、などと言えば、格好はつくのかもしれないが(別に、格好良くないかもしれないが)、しかし例外なく私にもそういうことがある。ただ、勇気をもらったからしばらく大丈夫かどうかというのは、正直な…

<284>「無縁と時間」

まるで無縁、無関係なものに対して全く無警戒でいるものだから、あっという間に距離を詰められてしまった。自分と対象とが一体になって、何故だかこの関係がどこよりも古いような気さえしてくる。それは、時間というものを持たないためか(つまり、今は、1…

<283>「何故だか暖かさを増していく」

夕景に踊る一両の流れ。伏せた目を細い影が捉えては損ね、捉えては損ねする。ほんのり暖かくなった内部を船が浮遊する。そこを満たすものは、ずらりと並んだ黒い群れ。警戒心を解かれた無数の粒は行き場を求めず、懐かしい光の中で空腹を装った。空中睡眠の…