<292>「理由のない困惑」

 おそらく叫びもしなければ、救ってもらいたいとも思っていない。これは何だろう。最初から持っていないから、目的を失いようがないのだ。全体が目的を失った(ように見えた・・・というのも、最初からありはしないのだから)ことに気づいて慄いた時代とはズレがあるのかもしれない。むろん、目的のなさは別に時代などとは関係がないのだから、最初から感づいている人はいつだって居ただろうが。

 困惑していてしかもそれに理由などない、と言っている顔。戸惑いから、感情らしきものを抜き取って、そのままそれを貼りつけたような顔。そういう顔に変わった瞬間を知っている。喜怒哀楽に邪魔されないときはいつもその顔だ。どう見ていいものか分からず、何とはなし的外れなものがひとつ、その空間に浮いていて、判断を拒絶している。なるほどこれだけ具体化された違和感もないのかもしれない。