<297>「平然と紙一重」

 罠みたく拡がる場所を前にして、何をこの、と力まない人間は、存外にどこまで行っても平気な顔をしている。一度も平気でなかったから後になってまた恐怖に陥る、のではなく、どこへ行っても平気そうな顔をしていたことに気づいて後から怖くなるのである(あれは罠だったのでは・・・?)。もし、後になっても別に怖くならないまま、ずっと進んだとしたら? どうということもない、ずっとそのまま進むか、明らかに罠に嵌ってしまうかだ。

 紙一重のことが延々と続く。それは一番安全と保証されている道においてもそうで、というより道が安全か否かということにもあまり関わりがなく、紙一重であるというのが基本だ。そう、紙一重のことが延々と続く。それが不安というものの原因だろうか? 在り方からして不安と一体である。それはどこかで解放される類のものではない。何をしても何を言っても平気そうにしている周りを眺めて、

「この人たちはおかしいのか?」

と思ってみたくなる。しかし、しばらく経って、ふとした瞬間に、平気そうな顔をしていた自分の過去を見つけて恐怖に陥っている人の姿を私は確かに見たのだった。