<13>「涙と傲慢」

 彼は泣いていた。あまりにも不遜であるということが、話を聞く前からよく分かっていたからだった。話の終わりにはもう泣き止みかけていた。泣いていることで彼の不遜さが弱まったようにも見えず、絵に劣らずの苛立たしさを湛えたままだったが、ともかくも彼は泣いているのだと思った。

 俺はどうか、不遜で傲慢であるためか、悔しさのため、辛さのために泣くことをしない(嬉しいときや悲しいときに泣いたりはするが)。しかし、それも思い上がりのためばかりではない、そういった場面でふっと泣いてしまったら、周りの人間を一時動揺させることになり、その後で、なんとなく優しげな、温かい、気を使った雰囲気を醸成せざるを得ないような状況に人々を追い込んでしまうから泣くのは嫌なんだ、と一応そういった助け舟のようなものも自身に向かって出してみたりはする。だが違う。私がそういった、涙をもとに打ち解けた状況に入っていくような変化を嫌っているだけだ。そうしてやっぱり、コイツはどこまでも思い上がっているという結論に到達せざるを得ない。

 自身の傲慢から、というよりその傲慢を守るため、俺は泣かないあるいは泣けないのだろうが、さて、ひとたび泣いてしまった方が、労わろうとする他人を、その後距離を持って眺めることが出来、涙で頬を濡らしながら、内心では再び冷めた目線で周囲を見回すことが出来るようになる、つまりまたケロッと傲慢に戻っていくことが可能になるのに対し、頑として泣かないでいると、その悔恨を形成する周囲がいつまでもいつまでも自身から去っていかず、傲慢な態度が次第々々に苦渋の表情を強く浮かべ出すようになるこの分かりきった不可思議を、私はどうしたらいい。泣いている顔を見て気分が悪くなる。こめかみの辺りを震わす鈍い振動が、だんだんに不快感を耐えがたい程度まで押し上げている。