<1118>「声に、水が触わる」

 また声だ。

 隣には産声。

 もろとも、長い、長い。

 ひとりで遠のく。長く影であればと思った。

 私は出なくなった。

 まるで何事にも応えなくなった。

 そのとき、回転体、月は、途方もない音になったと言う。

 わたしは口を開けていた。

 どこからが自分の声で、どこからが外で聞いた声なのかが分からなくなる。

 燃える金閣寺が映る。

 池に、水のなかに、ひどく無感動に、そのままに映っている。

 1対1のアンバランスな時間のなかに居て、ひとり安心している。

 声が違ってきた。

 私は自然に出るだろう。

 もとのもやいだ気持ちが薄く剥がれかけの皮のさまをし、ふと浮くように離れていく。

 突然に語り出した。

 声の表面にはつめたい色がさわっている。

 

 音声(おんじょう)、あなたが懐かしむ声だ。

 時に雨水。

 時に飽き足らぬさま。

 まるでたくましくなった空気が辺りを選むこと。

 嗅ぐ。 嗅ぐ。

 今では二人で誰かと過ごしている。

 路上 無防備で 声のそのまま置かれてはいないこと。

 不似合いだ。

 あるいは声の場所ではない。

 私は出なくなった。

 あるいは長らくこうしていた気がする。

 目であり、目であり得るもの。

 浮かむ。 浮かんで、全てに映る。

 等しくカラの容器、等しく全ての声。

 長くは不思議に移る。

 円い運動。 円い続き。

 誰かがそのまま声になれば良かった。

 通じるとおもうこと。

 疑う声のないままに、疑いがあらわれ出ていること。

 あれは全てのためらい。

 人がただ訳も分からずに産声を上げる。

 私は緊張していた。

 このようにして二人でいさせてもらえば良かったのではないか。

 集団の声。 集団の揺らぎ。

 ただ訳も分からずに私は静かに明けの明星めく。

 ゆるやかな声の狭間に真っすぐな水面が進む。

 ほっと息をつく。

 ふとした言葉にまた薄く停止が入ってくる・・・。