2016-01-01から1年間の記事一覧
枯れる方ではなく溢れる方を、暗がりでなく光を、静やかさでなく賑やかさを、そちらばかりを「本来」だとし、そうでないものは本当でない、好ましくないと捉える。生き生きとし続けるのが理想だという気味悪さ。 死の表情を含まないものは自然ではない、不自…
まだ、幾つと数えるのも早いような子どもを連れて、親たちがひとところに集まっていた。無関心だったり、他のことに夢中だったりして一向こちらを見る素振りのない子らをよそに、満面の笑みを作って、大人たちがこちらに向いていた。作った割にはぎこちなさ…
全くそうだ、と共感する。はずだ同じ悩みを持っていれば。それがどうだろう。悩みが私のものとそっくりになってくればくるほど、いよいよ、ああという共感から遠ざかっていくような感覚に陥る。 これは他人の話だ、他人の嘆きだ。そういう思いは、吐露された…
ひとつの人生、まあその場合、 「ひとつ」 が何を指すのかも分からないが、私が私以外になり得ないということで、一旦は納得がいく。 では、一度きり、一度きりはどうか。ひとつと区別がつけにくいが、ひとつである私の人生は一度きりか、どうも違うような気…
不自然な暗さかもしれなかった。眼の玉を失い、真暗が後頭部の辺りまで通過している感覚。意識も雑念も、存在を根こそぎ奪われ、位置という位置を失った。 意識は、光なのではないか。場所の知覚。それがなければ、意識はないのでは・・・。より確かなはずの…
何かを想って憂鬱になることもそりゃあるだろうが、純粋な憂鬱、つまりは憂鬱のための憂鬱というものがあるので、あまり、 「何故憂鬱になっているのか」 が見つからないときに、無理やり探すのは良くない。何かを想っての憂鬱ならば、すぐにそれが見つかる…
今も許せないでいるのかと言われれば、どうも違うような気がする。 「いや、それは許していないってことなんじゃない?」 と言われて、 「そんな訳ないだろ!」 と強くも言えないけれど、 「そうなんだよ」 と、頷けもしないような・・・。 恨みがジリジリ憎…
「元気なさそうにしてる、何かあったのかな? おかしいな・・・」 気持ちは有難いが、憂鬱に沈むことの多い身から言わせてもらえば、元気がないことがおかしいと捉えられる、まさにそのことが一番しんどかったりする。元気があるのが普通で、そうでないとき…
浮遊した群生。錯覚の美しさ。そこにだけ魅入る。そこにしか見出せない。ペアの落胆、接近の幻滅。酔っぱらった目で、遠くから眺めることを。 湿り気を帯び、暖かい。ひどく遠ざかるように。怒った後で冷たくなり、また群がりへと翻っていく。薄紫の唇を晒し…
言葉でやり取りする限り、嘘は出てしまう。嘘というよりも、本当のことが出ないと言った方が正確だろうか。いつでも周りをなぞっているだけだったり、全く違う方角で、計画された音がむなしく鳴っているだけだったりする。 「嘘をつくな」 この言葉の前で、…
関心を持つ、ということについて考えている。というより疑問がある。というのも、 「AがBに関心を持った」 というように、状況説明として使われることは別におかしくなくとも、 「何々に関心を持ってください」 「あれやこれやのことに関心を持とう」 という…
悲惨というのは、あるひとつの立場を指すのではなく、個人的な感覚を他者の感覚の上にまで拡大適用し、あちらこちらで勝手に憐れみ合っていることを言うのではないか。 自足できるかどうかは外部の状況と必ずしも関係しない。よって、大多数の他者が、どう見…
参加していないという感覚。既に完成したところへ混じっていて、異物としてあるという思い。勘違い? ときには錯覚でもって何らかの連関を感じ、大いに盛り上がることもあるが(錯覚によって盛り上がることの何が可笑しい? 毎晩、官能がそこにあるかのよう…
悲惨なカット。息を呑む。あちらこちらで立ち止まる。ふいに、用意されていた額縁が外され、無数の事柄の中へ、消えていった。 しかしその足で、ポカポカする太陽を浴びながら、特別に上手い一匹のところへ向かっていたとしたら。青緑に光るその石を、無邪気…
良いんです、私は信用していますから。彼は言った。おかしいな、信用というのは不実によって破られるのではないか。また、意地の悪いことに、それが破られるに足るものであることを確信してここに来たのだった。 しかし、彼は動かなかった。揺らぎもしなかっ…
自然の循環の一部として生きていた時代、神秘的なものと繋がっていた時代、そういう対象を失った時代・・・。これからはこういう時代だ、いや、こういう時代だ・・・。 起きて飯を食い、寝るという基本的リズムが変わらないのに、何だか大きな変動が人間全体…
「人生は短い。もっと沢山時間があったらなあ・・・。全然時間が足りないよ。」 こういう言葉を真に受けて、その人を汲めども尽きぬ時間の泉へ誘ってはならない。無限にある時間を前に、きっと発狂してしまうだろうから。 短い、短いという嘆きに反して、よ…
過去から郷愁によって引っ張られ、一方の端では、未来がそれを眩惑し、絶えず引き合い続けた末のたるんだ中心部で、柔らかに包まれている。 夢よりも夢らしい景色。それがひと重なりだと思えないような。名前のない場所で、躍動する身体が掬うものは。 こと…
本を読んでいると、今通過してきたばかりの文章を、果たして読んだのか読んでいなかったのかが分からなくなり、度々前の、通過してきた文章に戻り、一度読んだところからまた読み進めていく、なんてことをやってしまいがちだが、戻ったとしても、必ずや、 「…
自由の希求は、ほとんど不幸の追求とも言えるのではないか。繋がりや、しがらみが増えていくことを幸福と呼ぶのなら。 幸福ではなく、不幸になりたい。幸福を振りほどいて、徹底的に不幸へ突入したいと思ってしまうのは不思議だ。不思議でもないのか、幸福を…
何とも思いようのない。渦巻いてクルクルクルと音を立てた後、よそよそしく通過すらしないような。君はどう思う。耳慣れた外国語。行ったことはない親しい地に降り立つようだ。 それが、周りにはよく響くのだった。パチッ、パチッ。うつろった視線が、目標を…
余ったものとしてあるということを意識して、モデルがあってもどうにも馴染めない。では、モデルがなかったら? どこへ向かおうが全く自由だったら? それは怖ろしいことのようだ。そうだ。だが、意識は同じだろう。余っているという感覚は。 全くもって余分…
もっと冷静な判断を、とか、自分で見ていないものを決めつけるのはよせ、とか、もうそんなことを言うのはやめておこう。楽しめればそれでいい人たちだけが見ているのだから。他人に起こる様々な災厄を、自身の楽しみの為に取り入れていって平気な人だけが。…
そこに、何が秘められているのか。そればかりを追う人たちに囲まれて、秘密は、一番目につくところで、あからさまに佇んでいた。嘲りもせず、落胆もせず。 好きであるか、そうでないのか。そこに群がるひとりとして、開示すべきはただそれだけで、鍵穴のない…
当たり前に行われていることを逐一意識し、考えていたら、少し変になってしまいそうになるだろう。だから、当たり前になっていることについてひとつ残らず意識しようと努めるのは考えものだ。 だが、果たしてこれは自分の中で当たり前になっているのか、いな…
過去とか未来とかいうものが脱落し、今を生きていた時分のこと、他人は、私に対してひどくイライラしていたり、私のことを精一杯嗤おうとしていたり、何とか発破をかけて、過去や未来と繋がりのある、 「時間を持った世界」 に引きずり戻そうとしているよう…
言語の上で分かるというのは、ひどく初歩的な、あるいはやむを得ない際での最終手段のように思える。なるほど文章というものが、ある程度の文法を守って書かれているならば、それを読み進めていくことが出来るだろう。ちゃんと言葉はこちらへと伝わってくる…
人前に出ている、他人と喋っているときの私には、嘘しかないような気がする。言っていることが事実と符合するか否かは関係なく、全部が嘘っぱちとして漏れ出ているような気がするのだ。彼の態度はあんなに自然なのに。自分がギシギシと動くこと動くこと(彼…
時折、不調を示すような音を出すのを除き、扇風機が、一定のリズムで回転し続けている。虫の鳴く声が、休む間もなく延々と繰り返されている。 延々と繋がる一定した音を聴いていると、徐々に中心がずれていく、またはぼやけて霞んでいくように感じられる。長…
『平和に我慢ならない』で書いたことに関連して、完全に平和な世界というのがもしあるとすれば、それは、通常安易に思い描いてしまうような理想的な世界とは幾分異なるものだと思っている。それを想うと自然に熱い涙が込み上げてしまうような、美しい地点で…