短くなけりゃ・・・

 「人生は短い。もっと沢山時間があったらなあ・・・。全然時間が足りないよ。」

こういう言葉を真に受けて、その人を汲めども尽きぬ時間の泉へ誘ってはならない。無限にある時間を前に、きっと発狂してしまうだろうから。

 短い、短いという嘆きに反して、より一層の短縮策が図られているのが実際だ。余分者である、よって基本的にやることが無いという地点に立っていると、人生は、これでもかというほど長くなる。しかし、そういう地点に立つことを拒絶し、自分にはやることが山ほどあるのだという方向へ舵を切ると、想定されたあれこれにかかる時間と、自身の余命とが比較されて、限りなく自分の人生は短くなる。

 だから、人生が短くなる(あるいは短く感じる)のが嫌ならば、あれもこれもと掲げた計画を、少しずつ減らしていけばいいのだ。だが、そんなことはなされず、本当にやりたいことに加え、

「そんなこと本当にやりたいと思っているか?」

というようなものまで次々にリストへと加えられていくことだろう。何故か。人生が、あれやこれやの計画との比較で短くなってくれなけりゃ、とても耐えられないからだ。そういう人が欲しているのは溢れんばかりの時間ではなくて、

「時間が無い、ああ、私の人生は短いんだなあ・・・」

と嘆くことのできる、恍惚とした一瞬間である。