<1159>「太陽の外で眠る男」

 太陽の外にあってひとりまどろんでいる男。

 同じ日とはつゆ知らぬ男。

 隙間に向け、手を動かしている。

 手はお前の名前などは問わぬ。

 かたくるしい行列が、

 かたくるしい集合が、

 いや、ただのかたい身体が。

 手はいつも老人であり、子どもがはしゃぐのを見ている。

 はしゃぐかわりに、ただかわいて気持ちよくなりぼうとしている。

 ひとりで水を飲みなさい。

 水を飲んでいるところを誰に見られてもいけない。

 ひとりで飲みなさい。

 

 長い時間をかけて、段々に白く、茶色くかわいていく男。

 男は長い時間揺れている。

 身体が消えないことに焦りながら。

 時間は物語れないと思いながら。

 男は在り、揺らいでいる。

 いつなんどき経ても風景には至らなかった。

 なにも重たくなかった。

 

 男は白く、白い。

 男は長く、長い。

 日のことを見、どこかで忘れていた。

 日のことを知り、どこかで忘れていた。

 

 長い長い投擲の先に、一体何があるのでしょう。

 勿論、次の投擲があります。

 勿論、次の次の投擲があります。

 

 投手の時、この延々続く運動のなかにいれる歓びを思う。

 大体、繰り返せやしないことを、繰り返しのなかには置かない。

 それ以上に面白いことがあれば、いや、面白いことがほかにあっても、やはりまた繰り返すのだろう。

 

 もしかすると何か同じひとつの言葉だけが必要なのかもしれない。

 もしかすると何か同じひとつの日が、

 同じ日が、

 繰り返しに値する日時が、

 香りが、

 言葉が、

 段々同じ言葉しか発さなくなる老人が、かわいたままあたたかくなっているのかもしらない。

 行いは行いを忘れるかも分からない。

 時折 名は問われなくても良いのかも分からない。

 

 男が長いと思ったものは勘違いだったのか、

 考え違いだったのか、

 ひそかに太陽の外に出て、

 姿形を忘れたままに眠っている。