彼はまたなにか分からない方法でゆく。
ゆえに、また起床し、ゆく。
人は、よく考えて決めた。
わたしには前提がなかった。
よく考えることが、決めることと一致していなかった。
そこで、灰になると言われる。
灰はただわずかな風で吹き上がるだけとも言われる。
灰はまだわたしにとって新しいとも言える。
言えることが増えてゆく。
唇から灰がこぼれた。
まだあたたかく、そして、なにのためにあたたかいのかも分からないまま、灰は、唇をそのままこぼれ、どこかへ過ぎてしまった。
こぼれた後で、歓びは静かなものとなる。
ともかくも、ここで、声は、灰を演じ切ってみせた。
灰は、灰は、声になった。
人は、焼け切っていないので、焼け切らなければならないと考え、灰になると喜んだ。
短い場面を持ち、縦横をゆききし、列になり、かたまって、うつむいた人を招く。
訪れうる限りで一番華やかな場所。
人々は白や黄、それから赤などで、わずかに進んでいる。
声と空が近い。
わたしや灰は仲間だ。
手は頻りに、沈黙を触っている。
今さらのように、しかし、過去からずっと晴れている。
匂いはずっと立ち昇り、晴れている。
(人々は白や黄、それから赤などで、わずかに進んでいる)
流れる水に道を譲り、誰を訪れてきたのかも忘れてしまった。
放っておくと、僕は生きている場所になるから、たまに訪れてくれよ。
そうして訪れて、今は誰かは分からない。
晴れているからかもしらない。
他に見つむべきことのないからかもしらない。
馴染みのある声が聞こえる。
ひとりの記憶のなかに紛れて口をつぐむ姿。
歩道の色。
僅かに傾く。
気がつくと喋り、声のままで驚く。
ただの道行きの裏側で、
ただの通う水の裏側で、
ただ前触れもなく晴れ、声を誘う人。
一度も灰の夢を見ないわたしのように。
わたしのように、灰も見えない、その道行きのように。
過去からただに、あけらかんとして、
取り乱しもせず、ただその列を口にくわえてゆく人。
まだあたたかい。
まだ灰はまだまだあたたかい。
隣の人のことはかつて一度も知ることが出来なかった。
せめてわたしにうろ覚えの言葉のもうひとつやふたつあれば・・・。