<156>「時間の相違」

 椅子にじいっと深く沈み込む老人を前にして、自身の時間の進みが速いことに翻弄されそうになる。半日と言っていいほどの長い時間を一緒に過ごし、取り立てて何をする訳でもない空間には二度だけ食事が並んだ。本はない、テレビは映る、どこかに出掛けるという感じでもない・・・。皆が続々と帰ってきて、一転賑やかになるその居間で、単調が単調さのために静かに飽きを超えていた先程までの時間を、ぐらぐらと思い出していた。あっちこっちへ動きまわること、変化を次々に取り入れること、そんなことの数々がとんでもなく退屈だと気がつくのには、圧倒的な時間が必要なのかもしれない。一番退屈しないのは、ここでじっとしていることだ。それがまだ、ただの観念でしかない私は、せかせかと全体が動く夕食前の時間を、満足げに見回していた。