<157>「核心は」

 凡そあらゆる人の中で、最も周りに流されやすい、自分の考えを持っていないように見える人でさえ、動かされたくない領域というものを必ず持っていると思っている。それは当人が自覚していることもあるし、ほとんど無自覚なこともある。尤も、どんな人を取っても、完全に自覚していたり、全くの無自覚だったりということはなく、そこにはグラデーションがあると思われるが。であるから、流行戦略だとか、全体の操作だとかいうことを考えて、それが上手くいくと、

「人の気持ちを掴むことなど簡単だ」

と思い込むようなところがあるかもしれないが、そうやってあまりにも簡単に動かされるのは、戦略として打ち出されてきたものが、大方の人にとってある程度どうでもいいもの(それは関心がないという意味ではなく、各々の核心部分には触れないという意味だが)だからだと思われる。根幹部分を激しく揺すぶられないからこそ、多くの人が気軽に流れに乗っていけるのだ。であるから、戦略が多くの人のそういった気軽な部分を掴んだことは純粋に凄いと言えるかもしれないが、それがそのまま、人の気持ちを掴んだ、各々の核心部分を動かせたことになるのかは、甚だ微妙な問題だと思っている。