<1157>「溶けている」

 次々に溶けていくのです。

 歩行の男も、

 鐘も、

 感じ方も、、

 どろどろになっていくのです。

 あの羽根の夢も、

 香る匂いも、

 静かな翻りも、

 ただ勘違いの幻であるやもしれません。

 そこへ口をただ寄せて、文字もなく、伝達もなく、ゆるい響きをもたらすひと、

 

 同じ一日にしたい。

 いや、同じ一日同士ということに。

 わたしがふやけて、膨らんだ茎の前にしゃがみこんでいたときも、

 何かに駆られて急ぎ過ぎたところも。

 一瞬はぼんやりしている。

 ほうけた視線が、瞬間毎を、巧みに繋ぎ合わせている。

 歩から歩へと小刻みに移り、軽くホと吐くホと吐く。

 流れている。 

 黙っている。

 

 どろどろになっているところを見ると、いやどろどろになっているところを見られてしまったとすると、わたしは生まれるのをやめたのでしょうか。

 この袋を捨ててしまったらいいのではないでしょうか。

 あ、あ、揺れる球の海のなかで瞳がぐるりぐるりと巡りながらこちらを睨んでいるようではありませんか?

 そうじゃありませんか?

 なんだか身体が、身体と言ってよければ身体が、不穏に、もしくは怒りで固まっていく・・・

 固まっていくように思うのは幻かもしれません。

 わたしが羽根であるなどと誰が言えるでしょう。

 わたしがどろどろになって溶けてしまわないと誰が言えるでしょう、

 

 くさはらにあおむいて日も日で見えなくなってしまっている頃に、

 同じ一日は通る、

 瞬間と、羽根を持って、

 ぼうとしてこのひとはたきひとはたきを繋ぎ止めてしまったから、あいつは妙な格好をして、ここを飛んでいるのではなかろうか。

 あいつは怒りに固まってここをよぎるのではないかしら?

 違うのかな?

 白昼はひとつの平穏な予感を持っていて、

 ここへ同じ一日を集めているわたしの前にも現れる、

 揺れていこうか、

 どうしようかな?

 鳥の声は鋭くなっていく、

 同じ固さ、同じ移り、同じ溶け方、

 途方もない輪、

 えんのなか

 ぐるぐるとまわる眼・・・