<1166>「黄色い時間」

 芯があらわれ、吹き出るように燃え、

 しばらく眺めていました。

 さあもっと渦を巻かなければならない。

 もっと風を送らなければならない。

 そうして口をアいたまま、街道沿いの建物の、いくらか上階の、窓辺に新しい火の粉の姿は、ぽつんとありました。

 やがて円く燃え上がり、太陽になり、ノーモーションで刻々、刻々と大きくなるのです。

 いまや眺めるべきものはなくなっていました。

 あとには流れを忘れた黄色い時間があるだけです。

 下方に目をやると、誰とは知らね、黒い行列が、音もなく、歩行のそぶりもなく、ぞろ、ぞろぞろ、ぞろぞろぞろ、と、静やかに移っていくではありませんか。

 どなたかが声を掛けたら良いものを、どなたかが、、そう思ううち、出来るだけ大きく、すはやく、眩しく、声を畳み掛けていたのです。

 どなたも気がつかれぬようでした。そのリズムは太陽のことも忘れているようでした。

 夜です。

 夜の太陽は静かに見ています。

 おそらくこの街のことも初めて知ったのでしょう。

 どんな表情も見留めることは出来ません。

 階段を駆け下り、静かな地面に出ました。

 黄色い時間の方へ、歩いていくのだと思います。

 行列は誰も見ていません。

 近くで見ると、その背丈はいやに大きいのでした。

 ひょっとすると、黄色い時間に長く留まった人たちであるのやもしれません。

 先人の背中を見送りつ、わたしは黙って歩きます。

 それは憧れのためではないかもしれません。

 それは希望のためではないかもしれません。

 しかし、初めてその目で見る前から、わたしにはこの歩行が必要になると、どこかで思い当たっていたのでした。

 あるいは意識がどろどろに溶けてあるのかもしれません。

 太陽の光が思っていた以上に強く感じられます。

 しかし、こうして歩いていくことは、なんと容易なことなのだろうと、いちいち感動して進むのです。

 もうわたしは黄色い時間を眺めてはいません。

 そのまま円く、大きく膨れ上がり、街の先の街、その街の先、遥か向こうをひとりで眺めつ、確かめつ、ゆくのです。

 次はどこを燃えるのでしょう、

 違う街で、すっかり燃されて、音もなく歩いてゆく姿が見えるでしょう、声を掛けてください、

 聴くだけはしっかりと聴いていますから