70年以上、生活の場が、破壊され続ける場所へ。
外国行きのパスポートを取得することは、莫大な資産を急に得るようなものなのだ、と言われてしまう場所へ。
病院に運び込まれて来る人々は、銃撃を受けた人々であることが、当たり前である場所へ。
イタリアの医学生リカルドは、留学することを選ぶ。
友達や、家族がいて、幸せな場所から、争いの中心地へ。
私は辺見庸さんの『もの食う人びと』のオープニングをそこに重ねた。
普通の生活が破壊される場所で、やっぱり外国に出て行きたいと思ってしまう場所で、しかしそれでもここが故郷だから、普通の生活を守るんだ、普通の暮らしをするんだ、という気概を持った人々に、リカルドは出会う。
慌ただしい救急病棟、銃撃された人々が次から次へとやってくる場所に立ち、リカルドはそこで医師としての自分を定める。
ある境地へ、一度定まれば、そこからはどこへ行こうと大丈夫であろう。
それを得られるのがリカルドにとってはガザでの生活だった。
何故ガザだったのか。
もっともらしい理由を、いくつもつけようと思えばつけられる。
しかし、こういうとき、その場所が人間を選び、人間もまたその場所を選んだ、それ以外のことではありえないと、考えるのが一番自然だという気がする。