<2535>「『医学生 ガザへ行く』~アジアンドキュメンタリーズ」

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 70年以上、生活の場が、破壊され続ける場所へ。

 外国行きのパスポートを取得することは、莫大な資産を急に得るようなものなのだ、と言われてしまう場所へ。

 病院に運び込まれて来る人々は、銃撃を受けた人々であることが、当たり前である場所へ。

 

 イタリアの医学生リカルドは、留学することを選ぶ。

 

 友達や、家族がいて、幸せな場所から、争いの中心地へ。

 私は辺見庸さんの『もの食う人びと』のオープニングをそこに重ねた。

 

 普通の生活が破壊される場所で、やっぱり外国に出て行きたいと思ってしまう場所で、しかしそれでもここが故郷だから、普通の生活を守るんだ、普通の暮らしをするんだ、という気概を持った人々に、リカルドは出会う。

 

 慌ただしい救急病棟、銃撃された人々が次から次へとやってくる場所に立ち、リカルドはそこで医師としての自分を定める。

 

 ある境地へ、一度定まれば、そこからはどこへ行こうと大丈夫であろう。

 

 それを得られるのがリカルドにとってはガザでの生活だった。

 

 何故ガザだったのか。

 

 もっともらしい理由を、いくつもつけようと思えばつけられる。

 

 しかし、こういうとき、その場所が人間を選び、人間もまたその場所を選んだ、それ以外のことではありえないと、考えるのが一番自然だという気がする。