<2235>「名前のない男は」

 名前のない男の人は、

 物語を失って

 どこから来たろう。

 ここでも当たり前に、

 全ての人と過ごした。

 永久に名前を失ったまま

 全ての人と過ごした。

 それは私も知っている季節に違いない。

 けれど、

 あなたは名前を失って、

 故郷から漏れてきた。

 から、から、から、

 私は、かわいた響きのなかで、

 あなたの時間を受け取る。

 うん、

 あなたは生きそうだ、

 私は声を掛ける。

 だから、

 さびしい笑みを返してください。

 端の端の、そのまた端へ来ましたね。

 あなたは同じ目をするのでわかります。

 あなたは同じ呼吸を持つのでわかります。

 あなたは全ての人のように静かだからわかります。