<1960>「仮の場所」

 僕とあなたは暗所に居ました、、

 このなかで、

 なにやらカードだか、おもちゃだかを見ていて、

 ここが暗所なことを、

 気にも留めませんでしたね、

 あなたのお母さんが、

 静かに台所で何かをしている、、

 僕はその背中を、

 遊びの熱からそっと逸れるたびに見つめ、、

 ああしてああ、静かに立ち続けていることを、

 少し不思議に思うのでしたが、、

 

 あれは今思うと、

 仮の場所だったのかもしれない、

 あなたは小学校に少しの間だけ居て、

 しばらくするとまたいなくなったのでしたか、、

 小学生の時の私に、

 一緒に遊んでいる友達が、

 もしかしたら仮の場所にいたのかもしれない、

 などということは、

 考えつく訳もないのでした、

 あなたはここを、

 仮の場所として体験していましたか、、

 あなたは静かですね、

 もう少しはしゃいでいても良さそうなものなのに、

 だって僕たちまだ小学校に入ったばっかりな、

 そんなぐらいではありませんでしたか、、

 あなたが今どこか、

 他の場所で携帯や、

 本をひらいている場面に出っくわし、、

 私があのときの暗所の話をしても、

 あまりピンと来ないときに、

 ざわざわとするこの場所はどこでしょう、、

 

 ちょっと同じ場所に戻ってみませんか、、

 ただ同じように、

 家が連なっているだけだとは思いますが、、

 人間が通らなければならない線を、

 二本か三本、先に通ってしまった、

 そういう顔をしていましたね、、

 今でもそれは変わっていないのかなあ、

 私にそういった必然の影が差すのは、、

 もっと後だったんですよ、

 無邪気にはしゃいでいた日の私、、

 それがこの身体のどこかに沈んで、

 あなたへの通路を作っている、、

 不思議ですね、

 ここはただ家が並んでいるだけです、、

 少し線の上に重なってみましょうか、

 私はあなたが、

 この場所にまつわることを、

 この場所が仮の場所とは思っていなかった私と比べ、

 少しだけ保持しているのを、

 涼しいことと思いました、、

 あなたは、私も、

 そのときの、母の背中を憶えているような気がする、と言いました・・・