<1700>「点の記憶、道順もなく」

 全ての音が止まって、

 私の響く音だけが続くところ、、

 通路は暗く、、

 ひとりで、あたたまり、嬉しかった、、

 「私は、どうしてここまで来て、やわらかくなっているのだろう」

 戻って来る人の声を、

 身体にいくつも張り、、

 

 子どもの頃の、

 道順が抜け落ちた、点の記憶、点の旅、

 地名も知らない、

 どこのなんというところなのか、手掛かりがなにもない、、

 そこへぶつかるあてもなく、

 どこかここいらへんだろうなあ、

 という、見当だけつけて、、

 ふらっとそうだと思う方へ、身体を流して行きたい、、

 多分、

 まるで地理的には関係ないだろう部分が、

 あちらこちらでくっついて、

 それはひとつの場所ではないはずだが、、

 

 ある日、なんのきっかけもなく、、

 その場所のひとつに出会い、

 ああ、あ、

 と思うだろうとき、

 はたに人がいてもいい、いなくてもいい、、

 あ、ここは点の記憶のひとつなんですよ、

 どうやって来るのかがまるで分かりませんでした、、

 と言ってみるだろう、

 へえ、とか、はあ、とか、、

 それは困ってしまうだろうこと、

 困ってしまう人の気持ちも分かるから、

 ちょっと私の方でも笑ってしまうだろうこと、、

 

 ある日、私はキャッチボールをしている、、

 相手の放った球が、

 私の頭上を遥かに越え、、

 あ、ごめん、という声を背に、

 転がって行くボールを追いかけている時間は自由だった、

 そんな訳はないのだけれども、

 繁る森や、くさはら、風の中に、

 このまま紛れて、、

 私は長い時間そこで、

 人間でなくなる可能性だってあるぞ、

 と思っていた、

 もちろんこんにちまで人間でなくなることはなかったから、

 それは間違いなんだけれども、

 だからあれは外周からの語りかけだったのかな、

 と思ってみたり思わなかったりする、、

 

 朝、目が覚める、

 どうして私はここにいて、、

 私はまた一日を、ちょぼちょぼ作っていけるのだろうか、、

 そしてまた増えて、、

 私が複数になっていくこと、

 私たち、ではなく、私が複数になっていくこと、、

 光のいりがとても綺麗であることを、思う、、