「おほん」
「・・・」
「画家とは、つまり」
「はい」
「画家とはつまり、だね」
「へえ」
「画家とはつまり、流動するひとつの絵だ」
「なんて」
「画家とはつまり、流動するひとつの絵だ」
「は」
「いやだから、画家とはつまり、だね」
「へえ」
「もういいね?」
「そうでしょう」
「気づきました」
「気づきましたね」
「なにに気づいたかはまたあらためて言うこともないね」
「そうでしょうか」
「そうだと思うよ むしろそうだと思いたい」
「不思議なことを言いますね」
「僕にはその、あなたの心づもりというか、態度の方が不思議であるな」
「と言うと・・・?」
「と、問われて、ともかくもこういうことだ、という言葉を、あいにく今の僕は持ち合わせていない」
「ははあ」
「どう?」
「感心しました」
「本当に?」
「本当に? と訊かれましたらば、嘘だとこたえたい、そう思います」
「なにですかあなたは」
「なにですかあなたは、という問いがもうわたしにとっては不思議のなかの不思議ですな」
「それはそうでしょうね」
「たれか絵を描きますか」
「描くのでしょうね」
「そうすると」
「そのことそのものによってズレが生じるでしょうねえ」
「どうしても?」
「そう、どうしても」
「はあはあはあ」
「そうすると、どうしてだ?・・・と言われても、その移り方というのは自分でも分からんでしょうな」
「そんなもんですか」
「そんなもんでしょうね、説明できなきゃダメ、というけど、それは生理的に嘘でしょう」
「嘘ですか」
「ええ、、ただやっているうちにこうなって、こうなったからにはこうなるよりしょうがないという、喜びでも悲しみでもない、ただの事実があるだけです」
「はあ」
「同じところをぐるぐる回るつもりだったとします」
「心の持ち方としては当然あるのでしょうね」
「しかし同じところをぐるぐると回ればズレます」
「人間だもの」
「ひとはどういう訳か生きていますからね」
「おかしな物言いをしますよそれは」
「つまりね、画家とは、、」
「もう止しましょう」
「それもそうだ」