<896>「無私の歩行」

 疑いのなかの。あたしは、増える。指を触れる。触れ得(ウ)、るものの空(そら)、おそらくは呼気を読んでいる、ノ、は、わたしの震え・・・。

 ひとかどの文字に指を差し、目掛け、ト、そこでまろぶ。いまいちど小さくなり、いまいちど大きくなるの、は、なにだ? 視界の外か・・・?

 いっぴきの声の悲しさは、よく晴れた空(そら)に紛れ、また、視界の隅、おどけているのが映る、映る・・・。

 憶えているか? なに、記憶のなかに小さく分かれて棲んでいる、ノ、が、ふっと温度を上げるとき、がらがらと笑う、がらがらと笑う姿にしばし立ち止まる。

 特別な願いの指先に、短く、点滅、それは連続する線の素顔として、しょうたいとして、光る。

 あはれ、めまぐるしく変動する不安定性の言(こと)よ。私には嘘が許されている。が私には嘘が許されていない。

 めまえが大きな音(おと)で鳴るとき、少しく横へ、また横へ揺れてみる、ト、むかい側に笑みが、して、歩幅は小さめに、ずず、ずず、と、進んでゆく、と、晴れている。少しのびをする。

 無私の歩行は、たいそうな驚きでもって迎えられ、

  まァ、そんなものか

 という感想とともにある。

 わたしが言(こと)であるだけ、あなたがたも言(こと)である。そは、傲慢? そは、へりくだり? いんや、言(こと)を信用するその同じ形で、言(こと)以外をも、信用しているとしか考えられない。

 そとは暗い、そとは明るい、構わない、無私とシは歩行・・・。