<824>「ひとひと無量の声帯」

 層・・・。段階、と、記憶、にもならない厚さ。無量の繋がり。とがった、また私の、知らない声が、増えて、各々の故郷、を求めている、ように見える。

 ただひとりの語りべ。場所、小さく私の腰に、手を添える。譲られぬ、その幕あい、あいだに眠る数々の部品、それでパーツ的ダンス。階段とて、厳しさの仲間に、謎めく頬に含まれまだしも、帰りの折、安定した、冷たさが触れている。肌に触れている。

  肌から下のささやき

 肌から下は暖色の向きを誤りここでひとつ粟立ち始めている。その温度的な声帯のなかに、疑いを秘めながら煙立つ。歌声。歌声のなかに眠りがひそんでいる。鍋や壁の、打ちつける音が聞こえる。私はこのなかへ座っている。意識はもとより透明へのあくがれであることを知る。

  透明さは私を解消する

 過去この揺らぎに複雑な眼を落とし込み、案内(あない)された場所へ溜まり淀む。おのれの爆発先を探して丁寧に声を積み上げてゆく。そんな、けなげな表情を噛んでふくんでいた。

 気がついたときに私は陽(ヒ)を尋常だと思うようになっていた。それは例えば大袈裟な、大きさであることをやめた。私がちょうど舌で確かめるぐらいにはなっていた。後(あと)にいびつなささやき。ひとりでに指の上を転がると、それは衣(きぬ)の魂としての言葉を探す。自分は覆いである、透明であることは求めない。覆いには等しく声帯としての心を求めていた。心はわだかまりを求めて嗅覚を揺らす。使われなくなった色の、底に溜まった水気のないひと声。そこは無尽蔵の始まりでもある。