人間がひとりで夢を見ていた。
僕は願望を見ていたのではない。
苦痛をそこで消化したのでもない。
懐かしさにかまけていたのでもない。
誰か。
何故か。
ひとりの人間に対して、経験は多すぎる。
私は夢に溢れた。
私は無意識にあぶれた。
あの人は30年間家の外へは出なかった。
あの人はホテルを借り切って、ひとりの人間には多過ぎた経験を終生振り返っていた。
無意識は無邪気な夢を見る。
無意識は舞台を創造する。
覚醒してばかりの人々にめちゃくちゃだと言われながら。
溢れて多くなり過ぎた経験は夢を作る。
それ以上ではない。
分解したとはタが言うた?
あれは夢だ 現実ではない。
現実のなかで経験が溢れる。
私は私に重なり過ぎる。
そのことが分かるとあの人は30年間家の外へは出なかった。
ホテルを借り切って終生後ろを振り返っていた。
打刻。
打刻。
刻まれる音だけがこちらへ静かに響いてくる。
嘘のつけない人々のために経験は過剰になってくる。
経験は踊っている。
現実のなかで過剰になるものは踊るしかない。
現実に違いない人間のなかで懐かしさなどはまあもういい。
次から次へ重なるだけ。
音のする ペラペラと、そこで洪水の私。
私は水を飲む。
水のなかで夢は透明になる。
経験が揺れる。