<805>「断片の家のために、地面は笑う」

 ついに小ぶりの家は片付けられた。おどろおどろしい、色を巡っての噂や、それは妄想? ついにアけられることもなく。こちらへ迫ってくる、壁か、何か。あたたかいヒ、が隙間から漏れる。

  いらっしゃい

 私の家はここよ、小ぶりの家は今はもう・・・。あの、窪みのさらにそこから、きゃらきゃらと響く子どもの声、それを全て吸収した小ぶりな家。それは地面に、悲鳴とは何事かという思いとともにくっつく。

 あたたかい壁、をしか見ない。実に視覚的な問題だ。町の印象が視覚的で、取っ払われちまったらあたしには何が何だか分からない。記憶違いの町、は各々いろいろなところへ散らばって、私に再度訪れろと言っている。どうしたらいい?

 懐かしさばかりを頼りにするも雲は消えない。情景がかつての踊りにそっくりで、真似たり、歓喜で叫んだりする。ジョーホ―のなかに腕一本も見ろよ。まなざしはすぐそこ。相当にページが重なることで、軽く今を越える。まなざしのすぐ後。やがて私は歩く。

 時折時間を片付ける音が彼方から聞こえている。静かに座っていた。猛スピードで最後の一瞬を収めようとする群れ、が襲う。私は静かに座っていた。駆けてゆくそのそばで時間は次々に生まれている別の場所に移って上手に散らばる。思いを見せる、それは気まぐれ、一秒と続かないありきたりの日に見る夢のなか。

 ああ、思い出すとき、地面は笑うんだ。忘れていて、思い出させてくれたのと、表情が全てのそれ。地面は笑う、その記憶のなかの、速さのために。一本の腕の気まぐれで、この地に収まり、時折、笑っている。笑顔の見方、というものを、詳しくは知らない。あなたはまた、惑いを混ぜる。静かに座っていて、空気と、その窓、小さくふるえる各々の家、断片の家のために・・・。