花の群がりに、ひとつの美しい種が見留められる。
「あれを摘んで、私のもとへ置いておいたらどんなに良いだろうか」
と摘まんだその瞬間、花がまとっていた美しさが、ぱらぱらと剥がれ落ちていく。
驚いて、元あった場所へスッと手を近づけ、花を紛れ込ましてみるが、もう遅い。その花は私の手の中で、群がりの花々とは明確な対照をなしながら、くっきりと浮かんでいるようだった。
ガックリとして、その花は仕方なく家に持ち帰り、とりあえず飾ってみたものの、何の魅力も出てこない。
「もう花など手に入れるのはやめよう」
と、その後再び花の群がりの前に到ったとき、黙って通り過ぎようとして、しかしまたひとつの美しい種を見留めてしまった。
もう少しで摘まむというその直前、ハッとして引き返し、その場を後にする。見えているのは花の美しさではなく群がりの美しさ、どの花を取ろうが同じことなのだ。