『Harder, Better, Faster, Stronger』『Technologic』『Human After All』『Robot Rock』など、いくらでも代表となる曲、かっこいい曲がありながら、高校生当時の私はそう思い、『Emotion』ばかりを聴いていた時期があった。
何でこの曲ばかりを聴いていたのだろう。
曲名はEmotionなのに、この曲は、emotionalな様子をおよそしていない。
マシンボイスが、「エモーショーン」と繰り返すだけの曲だ。
高校生の私にはこの曲ばかり聴いていた時期があったのだから、何かに心動かされていたはずなのだが、その当時はそれが言葉にならなかった。
だが今ならいくらかは説明できる気がする。
つまり、この曲はちっともemotionalではないのにもかかわらず、emotion喚起的な要素がふんだんに含まれている曲なのだ。
私はこの無限にも思える「エモーショーン」の繰り返しを聴いていると、
それによってあるときには「もういいよ、よしてくれ」と思ってイライラし、
またあるときには繰り返しに誘われて恍惚の境地に入り、
またまたあるときはそれが果てしない歓びに繋がり、
そうかと思うと今度は感覚全体が麻痺したようになり無感の境に入り、この曲に対して何も思わなくなり、
またまたそうかと思うと今度はそのマシンボイスが無性に寂しい気分を私に起こさせ、というように、あらゆる感情がこの曲のなかで循環するのだ。
普通の楽しい曲、悲しい曲ならなかなかこのような感情循環は起こらないのではないか。せいぜいその曲の気分についていくか、ついていけないかぐらいのものだろう。
曲自体はごく単調なのに、受け取る側のこちらの感情が様々な方向に運ばれる曲というものに出合ったことがなかったし、今でもあまりそういう曲に出合うことはない。
そういう訳で、この『Emotion』という曲は、今でも私の中で特別な位置を占めている曲だ。