<1193>「無名の隙間に」

 葉陰が透明に向かって挨拶するのを、私は偶然に見ていた。

 ただ静かに、緊張に応えるようにしていた、

 応えようとしていた、、

 あいにく私が似合いの言葉を持ち合わせていないこと、

 いくらか風が過ぎてしまった、

 この時間はどこかへ溜まっていくのだろうか、

 あいにく私が声を持ち合わせていないこと、、

 ここはあんまり夢のように綺麗に晴れている、

 穏やかな冷気がある、

 穏やかなかわきがある、

 この快さはどこで過ごしていくのだろうか、

 私が空間を探すように、空間も声を探しているのだろうか、

 隙間を肌で緩やかに感じ取っているのだろうか、

 

 あるいはひとりの鳴き声が透明に映っている、

 見当違いの方向へ、顔を向けてみている、

 流れる、

 やや無名の時間をふたりで過ごしていた、

 かすかに無名の、

 ここかしこに潰れた匂いがこぼれて、

 響きがいつまでも残って、

 あれから私は生まれたのだろうか、

 

 わずかに青いと感じられるものから、

 静かに距離を取って、

 身振りを次々に映す、、

 一日は適当なリズムを持っている、

 一日は完全にかわいている、

 ひとつひとつの歩行が丁寧に燃えている、

 けぶっている、かわいている、

 静かに溶けた陰のように、

 眩んだ陽のなかの意識のように、

 それは私に貼りついたまま、真剣にかわいている、

 

 道を静かにさわっていて、

 揺れて、揺れて、

 あたたまっていて、

 ひとりでも見えて、

 陰に過去が聞こえて、

 微笑んで、

 暮れる、、

 あれから私は生まれたのだろうか、

 微妙な表情に僅かに指を添えていたのだろうか、

 無名の隙間がいつも喉を探している、

 手があからさまにのびている、

 そこで私は生まれたのかもしれない、

 ひとつの眼に驚いたままでいるのかもしれない、

 ある華やかさが、

 他意もなくひらめいていた

 眼の理由はなにも明かされることはなかった、

 わたしのまえで風があらゆる道を持ち、

 そわそわとしながら、

 肝心な呼吸と合わさり嬉しいという気持ちで居た、