<1151>「雨の子どもの家」

 路地。 くもる。

 慌てて音を出す。

 突然雨の意識を持つ子ども。

 二人には匂いがする。

 眼鏡の隅に小さく映る。

 駆け出していく。

 明かり、明かり。

 呆然とただ陽のなかに入(い)る。

 香り、香り、分からない。

 傘を振るった。

 人、人、地下通路、雨。

 微細、微細、分からない。

 それとなく触れ、静かに落っこちどおしだったものが、

 今に、今に、見えてくる。

 並ぶ。

 雨の後ろへ、傘を持って。

 人、人、立ち上がる。

 いつもの曇りを見ている。

 かつて軽やかに、この薄く黙った空気のなかを、一心に駆けていた映像。

 ひとり、ふたり。

 さわがしく、歌はなく。

 あなたが同じように生きていて。

 扉を見る。 座る。

 バスが動いた。

 夜を通して、この煙のなかを動いていた。

 当たり前の瓶、当たり前のコップ。

 疲労感、雨。

 さわがしく、 白湯。

 絶え間のない活動の穴。

 このまま、おじさんや、おじさんや、おばさんや、子どもや、わたしだって、駆け出す先を、忘れやしないという顔で、

 流れ、流れ、悪茶碗。

 あまりに路地を見ている。

 ものが過ぎ、静かに音を立てる路地を・・・。

 それから、名も忘れ、仕事も忘れ、忘れ忘れて腰を上げ、ほとつく息、はとつく息。

 声が上がる。

 傘の中に別の匂いを持っている。

 歩いて回るまで、あなたの匂いだと思っていたものを。

 日は過ぎ、日は過ぎ、

 いつもの姿。

 いつもの通り、いつもの水。

 1日に収めておけないものを持ち、

 夕方は歩く、夜は歩く、雨が来る。

 呼気は浮き上がる。

 ただここだけが現実を行き来する。

 あとは空間の夢。

 あとは我を忘れていて。

 伸びる、伸びる、 放ったもの。

 留守電、留守電、薬缶。

 プロ野球の声。

 長く、長く、沸騰に身体をはりつけていただけで。

 雨が来、ものの陰、冷たく、静かになって、構えている。

 次から次へうち、踊るのをそれとなく待ちながら・・・