傘のなかに入り、簡単に無言で、静かな道路をゆき、山をゆき、山をゆき、ついには門へ辿り着き、建物へ入ると、
他者、他者、他者のなかまた喧騒である。かたまりのなかにひどく不似合いなひとりの自分が紛れていく。
という思いを、また他者もひとりとして経験し、それがその人々の数だけ何通りにもなる、ということを上手く掴もうとする。
掴めない。それは掴めない。
異質であれ普通であれ他者は風景として完璧である。どうしてもわたしは完璧になれない。
という思いが何通りもあるということ。
わたしがまさに風景そのものとして完璧であるということ。しかもそのパターンの方が遥かに多いこと(他者は76億人?)。
異質であるという確かな手応えがそれでも1通りであること。
それを上手く掴もうとする。
例えば、ひとつの場所に対して次々に異なった目を配し、そのいくつもに移動し続けてみる、別の人として別の場所を過ぎる。
それは掴めない。
それはわたしには掴めない。
例えば誰かがわたしの噂をしていたとして、生涯それを知らない可能性がある、またその方が当たり前だということは何だろう。