<1076>「言葉は脂汗」

 さくる

 さくる さくる

 さくるはなんのきなし

 さくるはなんのきなしながら、

 言葉は援軍であるな

 言葉が援軍でなければ一体なんだろう

 経験はまた言葉たれ

 経験はいまだに意味の通らない言葉で回れ

 意識もただそこで泡立て

 回れ

 あたしは歩速を一(いつ)にする

 かわいた太陽へ静かに座り

 歩速は一である 一にする

 いつもの ただ湿り気のない かわいた太陽へ

 いつになく馴れ馴れしく

 ささやかに回りこめ

 経験よ乾け

 しらぬまに言葉になれ

 言葉になってそこにしゃがみ込み、

 いつのまにあつくなれ

 軽はずみな経験も、言葉も、さわぎも

 軽はずみなかわいた意識も

 ただ黄色い脂汗のもとでさむしく笑め 笑め

 笑め

 経験は脂汗

 (脂汗を長い連続で書いている夜(よる)に)

 へばりついた太陽のなかに、ふざけて溶けてしまうくらい

 あなたは援軍をあやうんでいる

 脂でべとべとになった援軍を

 もうしばらく胡散臭い目で、

 ただぱりっとした言葉で眺めている

 脂汗が茹で上がり極小の太陽の記憶を沈む

 太陽は晴れている

 太陽はめまぐるしい

 わたしの腕のなかでのみ、静かに灼け死ぬ

 言葉と太陽と名前

 おそらくは脂汗としか言えないもの

 経験の援軍的な身振り

 完璧にかわいていたこと

 記憶

 たかれている