<929>「泡のなかの騒ぎ」

 軽々とここへ寄越す。満ちは満ち、ひといろ、の眩しい。ただ香り、は流れ、徐々に空気の目に見える、皮膚はいつも通りごたまぜの、そのなかで輪を描(えが)いていた。たれかのために粟立っていた。

 向こうへ声を置く。わたしは知った。ひとのなかでひとが剥がれている。剥き出された目の、延長上にあるわたし。ただ静かに歯を噛み合わせていた。突然に舌が揺れを増やす。

 まどろみはひとの忘却の姿にひとことも置かない。霧はまた霧を見ている。奥まったところへひとつの泡が、それも、いつまでも泡でいるようなけはいが、そこにあり、まだ誰からも湧いている、まだ誰からも湧いている、あなたは手、深く優しく握られた手のなかにすんなりと素顔を置く。

 またあなたのひと声が、欲を知り欲を見、いつもの場面に混じる頃、わたしも同じものをより集めている。ひとは欲のなかに顔を突っ込んで、時間の散るなかで暴れている。

 ただ訪ねた。ここはまだまだ、欲が混じらねばならなかったから。気づかぬマに少しく暗くなっていて、ひとつひとつの泡が心から浮いていて、道は示されず、無数になる。ひとは声の掛けず、ゆるやかな踊りを持ってその先の動きに応えている。その場にはリズムもない、煌煌と照るなにものもない。

 ただしひとは盛ん、その明かり、揺らがない道々・・・。