ある日を境に、形は急に約束の姿に似てくるのだった。約束の姿を借りてくるので。わたしはかすかな呼吸を感じ取っていた。
あるいは、葉のなかで、鮮烈に一歩を刻むとき、もう空(そら)は待っていないと思える、あの感覚のなかへ、ひとりわたしは潜っていたのかもしれない。
移りゆく木の、いまさらな願いを、地面にすぅと伸びしずやかにあらわしているところ、わたしは水を舐めた。ひたすらにヒ、はみずからを進行していた。わたしは水を舐めていた。
薄らいでゆく、あるなんでもない記憶に、ヒは照り、真(マ)文字をゆるやかに白く浮かびあがらせるとき、あなたはかすかに息を立てて寝ている。記憶は透明な進路を辿り、静かにわたしを指差していた。晴れやかな笑顔のパチパチと散る・・・まばたきはひとりでに過去を思いやる。薄暗さは輝きとグレーになる。
その切れはしを、糸っくずを、虚ろなちりがみを潜る、と決めた瞬間から、わたしは大小のめまぐるしい華やぎのなかへ在ることになった。たれか口笛を吹いた。時代は記憶のなかで容赦なく遊びまわっていた。
見ると、また声を授ける。それは誰のにも似ていないのに、わたしには分かっていた、と言える。それはわたしの声だ。
鳥は忙しなく、声のなかにコオロギを求め、かつ混ぜていた。じたばたする朝と一緒くたになって中空へ放られていた・・・。