<925>「躍動体の、夢の息」

 踏む、は、速度。連続は地面の名を持って・・・、日々は搾り、日々は匂いを嗅ぎ、やたらに増えてみせる。

 わたしは知っている。よく声の伸びている。手はあたたかい。手はふたつの名前を行き来している。

 ヒ、のなかに真白く跳ね、ひとを見る、跳ねたら現実感を失っている。唖然とする瞳や瞳のなかへ、見事に分裂してゆく、その瞬間がわたしにも感じられる。

 ひとは分裂した躍動体の夢を話した。手のひらはにじんでいた。記憶のなかに弓なり、粒になって溶けてゆく身体(しんたい)の映像が、リズミカルに繰り返されてゆく。わたしは新しい話をする時間を捉えていた。

 これはなまの乱れだ。ひとが呼吸をする日、ひとが意図のない声を茂らせている日に、なまのままひらいている。ただ垂れてゆく。わたしがついに内(うち)と外(そと)とを交換する、ヒ、は液状になってゆく、瞳は揺るぎない。

 わたしがどうようをうたうときに、ひとりで駆けていたものはおよそ声のないもの。探るそぶりすらなく・・・。

 ただなにげなく散ってゆくなかに、あらわれたいくつもの誘い。ただ鬼のツラをしていて応えた。ただ鬼のツラは静かだった。

 なにの変哲もなく時折車が過ぎ常緑音(おん)をかき混ぜるときに、安堵してあくびで返す。誰が誰やらの音(おと)へ素早く加わってゆく。ふたつのあいだで夢と笑って・・・。

 ある日わたしの呼吸は間違いなく通せんぼゥの姿になっている。わたしはそこへ巣になると、声の混じるなかに眠っていたのだ・・・。