<821>「うろは戸惑う」

 ひびの根の間(マ)。あつらえた長い日。

 傍らにかけてゆふめいな、あの白々しい大きな明かり。

 俺はそこから飛び去った。

 俺の意識は黒々とした平らな地面に伏せていて、僅かな音を立てその水を挟む。

 てらてらと光り、滴る、甘美な幹のその一枚内側。語りはその枝葉の端々に触れ、夕(ゆう)ずれを夢見る。

 あなたが裂けた。

 浴びてしかるべきもの、こと、のなかから一枚意識の私、の全体像、剥がれて散る、その距離は、軽やかな鳥の思考(志向)をなぞる。

 鳥は目の色を変えた。

 あの、無遠慮な視線。急速に回転する無関心。招び声のなかに、木(き)の葉一枚の揺らめきが混ざり、鮮やかにその場を披露する。

 むずかる我が子はその小ささのために転落した。ついにくちばしはわがことのように木(こ)の葉を色づけ、辺りの記憶を探らせない。

 あたらしい輝きのなかにそれとはなし、ゆっくりと啜られてゆく幹の、考え難い不動心が映る。空洞は、それ自体物事を、いや語られない次々を、震わせ響かせることにした。

 余計な羽(葉)の重なり。取り立ててずれもなく、無残にも翔ぶ光景を、ためらいなく見せている。太陽は戸惑う。太陽の香り。

 軽さ、それから、横断また横断、渡りの絶え間なさ。余計な羽(葉)をまとった空洞は、次々に色をまたいでいる。太陽は歌っている。

 枯れ葉にいちどきに群がる。枯れ葉は絶え間のない奔流となり私を無遠慮に踏みつぶしてゆく。私は鳥の目のささやきを聞いている。色の違う声を招んでいる。