<822>「黒い声」

 渦巻きの絶えた、その指のあとさき。

 無量ににじみ、無量に狂い、露(つゆ)はけどられぬ。

 僅かに感情が、遅れずれ出てくるのを、棒立ちで見つめる。

 たゆまぬ目。たゆまぬ目の先に移ろう、ひとかげりのカラス。

 カラスは単調を拒否した。

 そこで、複数の声を混ぜることにした。

 声は、日常の場面をしんと笑う。軽蔑でなし、優越感でなし、おのれの和やかな名詞的意識が割れるのを、すぐ眺める。割れた意識はしんと笑う。

 おぼろこそ思えどもこぼれ出でて知らぬ先へゆく、ゆく、そのかげり。身体(カラダ)に笑いとなめらかさ。のちよく染みて・・・。

 むざんにも食われそこへ、明らかに破片、と断片意識、の全体の惑い、曇りかな揺らぎ、夢の角(かど)はふざける。剥がれた、という、記憶だけが残る。もの思い、のち浮上する。

 ここらでひと染み、ひと染みから全てへ。

 ここいらでひと染み、ひと染みから、次々に破片となる、忘られたあの人のもとへ。

 置かれた歩(フ)、・・・が速やかに隙間へ忍び込み、あたしは、まるで関係のない、あてどもない言葉をつぶやくことに、何の変化をも用意しない。

 朝にはもう、掻き分けて声が出ている。

 私はおそらく知らない子、と、巣を認識している。

 瞬間にだけ、不明の怒りは話す。

 あたまに来たらそこから先は間隙だ。