<727>「開始の苦さ」

 出発と、到着と、逆にしているのではないか。そこまで大袈裟になるほど難しくもなく、かといって簡単だ簡単だというようにふわりと浮いてゆける類のものでもない。ですから途中で、こんなこと、と言って中止にしてしまう例がどこにでもあるのがよく分かる。そうすると、だから、

「こんなこと」

から始まっているということをいつも意識していかなければならないのではあるまいか、どうか。

 スラスラと進む、その軽さに向き合う。その軽さに向き合うのにうってつけだ。こんなこと、がそこかしこにちりばめられている。それを拾ったり、また新たに作ったりしている。ただの溜め息より軽く、またそれだけ軽いことが何らかの利を生んでいる訳でもないとすれば・・・。

 戦いに例えられることがある。しかし、戦いというほど過酷なものでもない。この場はずっと、止まっている気がするのだ。確かに動いているのだと、実感したようなつもりになっていて、その実わからない。混乱は的確な形を伴っては現れないのであって、また、何が混乱となり、どれを混乱と呼んでいるのかも分からない。

 苦さ、と誰かが言った。それが一番うまいのじゃないか、と私は言った。いつの間にかひろがって、ゆっくりと流れる。積極的に舐めてみる。何も含んでいないみたいなぼんやりとした顔で。