重低音が、上下に揺すぶるように部屋を撫ぜ、耳鳴りが全体に拡がっていくような悪夢ではどうやらないことを確認し、虚ろな目を開いた。いつの間にか反対向きに寝ていた。
大方、飛行機の音だろうと思ったが、それにしては停滞している、歩みが遅い。どちらからどちらへ向かっているのか、普通なら気がつくはずだが、それすらも分からない。
あまり気分の良いものではなかった。音は、大きくなるでもなく、小さくなるでもなく、一定の音量で不安げに揺れている。午後6時前、辺りは鈍色に沈んでいる。
ふと、昨日すれ違った女のことを思い出した。すれ違ったはいいのだが、何かの用を思い出して道を引き返すと、女はまだそこにいて、私と視線を交わすと、少しく淋しげな様子で前を横切っていったのだ。
背格好、服装、髪型、明らかに同じ女なのだが、引き返す前と後とに見た顔が、微妙に違っているような気がした。あんなに目は落ち窪んでいなかったのでは、頬はあそこまでコケていたか・・・。
おもむろに起き上がり、鼻頭を掻く。振動が解けて和らいでくるのを、ぼんやりと眺めていた。