目の焦点が定まっていない。一体どこを見ているのか。見つめているつもりで、どこか違うところを覗いている。精悍な顔とは程遠く、疲れた頬が、だらりと垂れ下がっている。痩せている、というよりは、痩せさせられているという感じだ。顔が良くないという主観を覆す他人が嫌で、承認を避け、遂には好意的な他人ですらぎょっとせざるを得ない程の顔に落ち着いたという訳だ。全部望んだとおりだ。そのとき何を考えたと思う? もっと綺麗になった方が良いかしらん? だって。馬鹿じゃないのか。好もしい顔の不自然、だが、そこへ矯正される以前の素朴な表情でもない。もっと、もっと汚い何か・・・。ひどく疲れることすらやめたような、滑稽では済まないような面・・・。
俺は、彼の顔がここに落ち着いた軌跡をまともに見たような気になった。それは緩慢ではあるが、しっかりとした目的を持って、上下左右へともぞもぞ蠢いた。決して外側へは開かないと決めているような、断固とした素振りで、顔はそこから撤退した。焦点が合わないのは当然だったかもしれない。もう外を見てはいなかった。怖ろしいしつこさで内側の下の下の方を覗いているので、眼球は白い抜け殻のようにただそこに残っているだけだった。存在することをやめた顔は、各所を支えている力を失った。垂れ下がり始める年頃ではないとかあるとかそういうことは関係ない。留め具のような、背筋の伸びる音を失った後は、このようにぶら下がっているよりしょうがないのだ。
何故だが快い気持ちになってきた俺は、彼の絵を描いてみようという気になった。これを残しておいて、毎日見れば良い。写真でもよかったのだが、どうも写真では上手くいかないような気がして、やはり絵を描くことにした。やはりという程の迷いも、本当は持たなかったのだが。絵が出来上がると、彼にも心地よさが伝染したようだった。毎日この絵の前に立つことを考えて、沸々と湧き上がる笑いを堪えることが出来なかった。