こんなに良い1日があるのだろうか。暑くもなければ寒くもない。時折吹く風が、歩いていて上昇しかかった体温を、絶妙なタイミングで冷ましていく。
ゆったりとした呼吸のリズムが、巡りの良好を示している。鼻を媒介として、つま先まで通った空気が、再びスーッと身体を駈け上っていくのを感じている。
「ドドドド」
という工事現場のリズムが、血の巡りと呼応したように感じられ、知らず高揚が押し寄せてくる。四方に分かれたい放題に伸びた木々の枝が、両の手を広げて私を迎え入れているように思える。
コツ、コツと一定のリズムで歩いているが、そこには歩こうという意識もなければ、何かに急かされ歩かされているといった感じもまるでない。ただなんとなく前へと進んでいっているかのようだ。
私を含めたすべての物が、ゆっくりと動いている。あまりに落ち着きを持った空間がそこにあるため、
「私はこのまま死ぬんじゃなかろうか」
といった意識さえもが頭をよぎりだすようになる。また、
「しかしここまで快適なのならば、ひょっとして生死など関係のない時間にいるのではないか」
とすら思えてくる。
こんなに良い1日があるのだろうか。