コツ、コツと、一定のリズムで階段を上っている。しかし、一体いつからこの階段を上り始めたのだろう。後ろを振り向いても、ボンヤリとした暗がりが広がっているだけで、何も見えない。ばっと前を見返してみても、直前の10段ほどしか見えておらず、その先は同じように暗がりだ。
「もう、めんどうだから下りていったらどうか」
「どこまで続いているかもわからないし・・・」
というようなことが頭をよぎるが、足のリズムから生まれる、コツ、コツという音が、短い警告音のように聞こえてきて、なかなか引き返す気にもなれない。それは、
「止まれ」
という警告音かもしれないではないか。
リズムを刻み続けているうち、次第に警告音は、ただの、
「コツ、コツ」
という響きへと戻っていく。
もう、どれくらいこのまま上り続けたであろうか。ふと、今までとは異なる気配を感じ、顔を上げると、そこには一面の壁。行き止まりであった。足元に視線を移すと、階段もあと1段で終わりのところまで来ている。
ここが到達地点なのか。しかし、到達を示すような印も文字も、壁には浮かんでいない。しかし、到達地点であるとすれ、そうでないとすれ、ここに立ち止まっていても仕方がないと観念し、再び元来た階段を、
「コツ、コツ」
と下り出した。
その足どりは軽やかだった。