<973>「記憶に一枚違うものを結う」

 会え手繰る 会え手繰る

 そこはかとない照り輝きに

 一同涙を流す、

 辺りはしゃんとす、

 まともに目に受けた そいで、あからさまに渡った

 別の角度から静かにあらはれ、わたしと顔の交換をする必要がないひと、、

 そはどこか遠くまで行(い)っていた、

 わたしの記憶のそばに一枚違(ちが)うものを結っていた、

 あらたになる歩み、

 後から知らされうること

 鼓動遠く、そのまま野(の)に漏れ出でること

 かけらがまた全ての嬉しさ また かけらがまた全ての美しさ

 しわぶき ついで照れ笑い、

 小躍り その一片一片が静かにとけ、淡く道々を照らしている、、

 その先にまだあたたかい風が、

 今日からまた澄み、晴れやかな呼吸、

 わたしが緑を手伝って、

 ちっともかまわない、

 黙想にすむただひとりの陽光、

 それをさす、小さな指、、

 うち微笑む、、

 からだからさわりが抜け、

 またただの線に出でてやわらかい

<972>「まどう、ひ」

 まどらいヒ

 いずれにせよ、深くわたしは喉をためらう

 そは叫び声

 冷静に諭した

 ときおりうかがいみることの出来る

 遅れて名は浮かぶ

 みずからが指し、みずからがくるむ

 そこに名前は・・・

 はるかなヒ

 ひと 意識

 なにげないささやき

 あたしの回転に関すること

 もののまろび もののまどろみ

 あたしがた近づく

 うずく

 それにあたるヒ

 あらたに響き

 からみ、勘違い

 ゆくえは濁っている

 あらたにただの肌の触(ふ)れている

 ふふ

 たまさかあどけなさ

 覚悟 笑い 軽やかさと、からまり

 マダ、小さなヒを口のなかであたためておく

 それに動じる

 ものがなしいうた

 どんちゃかどんちゃか過ぐ、

 そして色濃い

 かたわらになにか、わたしのはたいてきたものが

 まどらうヒのなかを覗き込む、

<971>「タザ、タザ」

 座臥、それから打坐

 打坐、打坐、打坐

 うたれる、、

 今日の音(ね)が、いわずとも響く

 堂を過ぐ 堂を過ぐ

 いたってひらたい いたってからっぽの いたってあたまのなかに

 野(の)ぐさいうたも過ぐ、、

 時間は軽やか

 跳ねたい 跳ねたい

 わざとあなたを吸い込みたい、

 まるでもうけ まるでもうけ

 夜(よ)を平気で過ぐあなたの響き

 あなたの座臥、

 感傷的な音(おと)は去り

 あなたが残る、

 そこにただ坐しているひとの、、

 うちここちよい響きが残る

 わらう、あるいはからの大声で、、

 堂内うち乱る、ひとところのまぐわい

 するすると手、するすると手の、かわいたリズムに、

 ただもう蓄年のうたが乗る、

 おゥ おゥ おゥ

 かなしいひとりのじねん

 わたしの先のふるえ

 やんやと手をひらげ、あなたを掬いいだす、

 そこにいっさいの照りはためき、

 そこにいっさいの雲間の風、、

<970>「甘い運動体」

 一等この軽やかな熱を帯び、ちらつき

 すぐに走る

 をろをろ をろをろ

 ヨロィ ヨロィ

 たわみ 束ね 知る ひとつの線

 線上間際

 交換する 絡まる

 間際に散る

 ささらささら、さらさら

 揺れ揺れ揺れに暮れて真新しい

 ぼちぼち光る、ぼち光る、なぞれ

 悲しい薄桃色 

 パンのジャムが細切れの、ひとりの時間のあいだあいだに流れてく

 ジャムの破片が風に乗り、湿り気を失うと、とたんにさ迷うあたしたれの口にあたるのかしら

 口にあたらなければあなたはジャムでないのだった、では風に吹かれて、ただふらふらと断片になって、どうしたらいい 記憶のようにその場その場で甘くなってみたとして、それでどうしたらいい

 たれ触(ふ)ることのない軽やかな甘い運動体になってしまった

 用途を過ぎ、しらずしらずぼゥとするわたしのまだるこしさを、丁寧な言葉に分けて伝えたい

 ただこまごましたものの軽くて、うたって、みなほうけているのはなにだろう

<969>「あらゆる振り」

 あらゆるゆくえ

 あらゆる染(そ)み、

 あらゆる窓、、

 あらゆるはにかみ、

 あらゆる発ち、から、

 今は過ぐ、

 呼吸が綺麗、

 あらゆるものはひそみ、

 ふたつの横顔、

 転(ころ)ぐ 転(ころ)ぐ 転(ころ)ぐ

 あしあと、

 もの芽生え、

 やたら

 やたら騒ぐ、

 ひとり胸をおさえ

 吹くただに

 ただに浮く、

 それにひとみのすばしこさ

 吹き荒れている

 騒ぎ ひそみ 吹き荒れている

 あなたがたが違(たが)う

 あなたがたのひととき

 すばしこい

 すぐにもの憂く

 ねばこいののあいだを、

 ひどく走る、

 まえの腿のふるえ

 いつとはなしそのなかをゆき

 まえの腿のふるえ

 あたまのなかにも過ぐ、

 ゆびが、ひとつの空気を探り当ててゆく、、

 け、駆け

 け、さらう

 日(ヒ)にするどさ、日(ヒ)に鈍さ

 視線はたがう

 恥じらった

 忘れただけの

 忘れただけのもんじ

 さらに流る

 ひつこく汗、、

 ひつこく辺りに散らばる、

 小石の音(おと)

 またあくがれ、

 破片のそばを過ぎ、

 たれにも届かない、あるいは轟音

 音(おと)は久しく

 ものはくわしく

 淀み、から、あらたに湧出

 それでない、

 ただなぞり、、

 ただ肌におさめてゆく・・・、

<968>「静まり返った、不確かな日に、」

 たれも たれも こたえていない、

 不確かなヒ、、匂いのすぐそばに、

 移る 移る 移る

 言葉の端(はし)に垂れて、まだら

 まだら

 ただの空間をそこに隠している、、(あなたは何故・・・)

 からの響き、、また外へかえる、そのために振るう、、やけにゆるやかに、停滞、または晴れ、意図のない笛、また笛に似たものもあり・・・、

 まだらな意識のなかに、その時間を好いているということ、

 触(ふ)れる、

 あなたが揺らぐ

 あなたがその余計にかずえている姿に、また晩の訳(わけ)のない落ち着きかたが重なる

 点ける

 ぼゥ、ぼゥとした、ただのひとみ、あなたはただ落ち着いて、不安の大きさを表していた、

 はらう はらう

 わたしはただ今日(こんにち)の声を、出来うる限り届けている、、

 何故だろう 何故だろう

 妙にすみやか あなたはためく

 あなたかけがえのない

 声はすっとその、静まりかえった意識を包んでいる、、

<967>「乾杯」

 ひとつの色(いろ)をかけて、点灯と、青いグラス

 わずかなためらい まぶたがはがれる

 まだあわれに氷 ひとつの回転

 常の眠りと 破られた照明の

 堂々と営み、かくて、静けさの渦は映る、、

 ひたすらに覗く、、

 集合体、あるいは押し寄せに対して、おのれのペースしかたもちえないこと、

 外はからからに

 しとど しとどは 経(ふ)る道の在り方、

 あなたばんざい

 あなたのよるべなさに

 あなたの いくらでも静かな不安に 少し手を添えて

 乾杯 乾杯

 揺れ動く

 おもむろに笑み 間違いのない

 やらかい接触に

 ただふたりだけで居(お)るこころ、