<2948>「『霧の淵』」

 kino cinema立川にて。

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 世界から、全く切り離された場所で。

 

 あまりに静かすぎる、美しく、平穏な場所で。

 

 私はいつまでも生きていくのだろうか。

 

 もうここで一生をほとんど過ごし切ってしまった者。

 

 いつも同じ景色、同じことの繰り返し。

 

 若者のように活発に動き回るでもないが、ここにとどまるか、出て行くか、考えて揺れる者。

 

 旅館をやめて、この村を出て行くとしたら、あなたはどうする?

 

 それらの世代の異なる大人の姿を、黙ってそこに存在する風景を、イヒカは丁寧に見つめてゆく。

 

 将来何にでもなれるし、何でもできるからなあ。

 

 大人たちは言う。

 

 私と、あなたと、歳が違うだけ。同じ人間ではないか。

 

 将来何でもできるって、何だろう。

 

 私には、この場所しかない、というのは。

 

 この場所が一番必要な場所だ、というのは。

 

 いつ定まるのだろう。

 

 完璧にその場に定まりきっているように、子どもからは見える、様々の年代の大人だって、定まった場所から、時々振れそうになる。

 

 もうここに、とても居られたものじゃない。

 

 思い直し、縁側で、音楽のボリュームをあげて、まどろむ。

 

 イヒカには、旅館が必要だ。

 

 しかしイヒカだって、いつ振れるか分からない。

 

 母親は、イヒカを探している。

 

 イヒカは、何事もなかったかのように、あの村の、旅館にすっと戻るのかもしれない。

 

 もう一生、戻らないのかもしれない。

 

 その運命は、一体、いつ決定されるものなのだろうか。