14年前のイチローさんの決勝打は、間違いなくここに繋がっていた。
そう考えると、今回のWBCの真価が発揮されるのも、ひょっとしたら10年後、20年後のことであるかもしれない。
10年後、20年後の野球の未来を、今ここに、選手たちがこうして打ち立てたのだ。
WBCの熱狂が落ち着いて、6月。この華々しい歩みを記録映像とともに振り返ってきた。
栗山監督が、そして中心人物たる大谷選手が共通して持っていたもの。
まだ誰にも見えていない未来に、強烈な光を当て、そこに輝かしいものをまず築き上げてみる、その想像力。
築き上げたら、そこに向かってひとつひとつ、丁寧に準備をし、そこに到達できると信じて疑わない精神。
準決勝、メキシコ戦。
限りなく追い込まれた状況で、大谷選手は、さあこれから楽しいことが始まるよ、とでも言わんばかり、明るい表情で、ナインに向かって準備して、と声を掛ける。
その表情を見ていると、もう、明るい結果が既に出ているかのような錯覚に陥るほどだ。
予言のような表情を、現実が丁寧に裏付け、決勝に進んでからは、全ての現象が、あの、ビッグエンディングに向けて静かに事を進めているようだった。
僕は常に楽しいですよ。
きっと、大谷選手も、トラウト選手も、自分たちがWBCに出たら、あわよくば戦えたら、この大会を最高のものに出来るという確信があったに違いない。
しかし、ここまでのエンディングは予想していなかったに違いない。
下手したら、野球の神様だってここまでのことは出来ないかもしれない。
でも、野球はその場面を用意してしまった。
現実は、人間の想像力に応えてみせた。
2023年に、野球の輝きを目撃した人々は、個人差はあれど、きっとこれからも野球を、離さないだろう。
きっとまたこういう結末に出合えるという想いを、ひょっとしたら生涯失うことはないだろう。